6.浅間前掛火山の中規模噴火Middle-scale Eruption of Asama-Maekake Volcano 高橋正樹・安井真也・竹本弘幸(日本大学文理学部地球システム科学教室)
6-1 浅間前掛火山の中規模噴火浅間前掛火山では,300〜800年に1回の割合で生ずるプリニー式大規模噴火の間に,中規模のブルカノ式噴火が断続的に繰り返される.図6-1はこうしたブルカノ式噴火の代表例である. 中規模噴火ではしばしば小規模な火砕流が発生する.図6-2は1973年噴火時のこうした小規模火砕流の例である.噴煙柱の根元から火砕流の雲が山体の斜面に沿って流下しているのがみえる.小規模火砕流は火口から数km付近にまで到達する場合があるが,4kmを超えることはない. 6-2 最近500年間の噴火史図6-3は最近500年間における浅間前掛火山の噴火史を示したものである.1500年代から1700年代の前半にかけては,ブルカノ式噴火活動が活発な時期と静穏な時期とが繰り返されている.1700年代半ば過ぎからは静穏な時期が始まり,やがて1783年のプリニー式大規模噴火を迎える.天明大規模噴火後はしばらくやや静穏な時期が続くが,1900年から1960年まではブルカノ式噴火の活動期となる.その後1973年の中規模マグマ噴火,1982〜1983年の中規模噴火後はブルカノ式噴火は影をひそめ静穏期に入った.2004年9月の中規模マグマ噴火は21年ぶりの出来事であり,本格的なマグマ噴火としては31年ぶりのものであった.最近500年間では大規模噴火は1783年の1回しか起きていない.その前後には、ブルカノ式噴火の活動期と静穏期が数10年間隔で繰り返されている. 6-3 最近110年間の火口底深度変化ブルカノ式噴火の活動度と火口底の深度には関係のあることがわかっている。図6-4に最近110年間における浅間前掛火山の火口底の変化を示した。1900年から1960年の活発な活動期には、概ね火口底が上昇していたことがわかる。最も上昇していた時期には火口縁付近にまで到達していたこともある(図6-5B)。1983年以降は火口底が下降していたが、2004年9月以降の噴火時には、再び火口底の上昇がみられている。 火口底が上昇している時には、しばしば火口底に溶岩塊が出現する(図6-5A)。この溶岩塊は噴火にともなって破壊と生成とを繰り返す。 6-4 2004年9月の噴火浅間前掛火山は2004年10月現在噴火活動を継続中である.これまでの諸機関(東大地震研・産総研・信州大・群馬大・日大など)による噴出物調査等を総合すると,2004年9月1日に始まった今回の噴火は以下のような推移をたどったと考えられる. 9月1日の中規模噴火では,上昇してきたマグマにより火口底直下のガス圧が高まることで大爆発が生ずるとともに,蓋をしていた火口底の岩石が吹き飛ばされ,さらに上昇してきたマグマの一部がパン皮状火山弾やパン皮状軽石として放出された.噴煙は山頂から3.5〜5.5kmまで上昇し,北東方向に広がって広範囲に火山灰を降下させた.9月14日から15日の噴火では,繰り返される規模の小さい爆発的噴火によって,火口底を構成する岩石が同様に破壊され放出されて,南東方向にたなびいた噴煙からは火山灰が降下した.こうした噴火の結果開口した火口からマグマが火口底に現れるようになり,16日夕方から17日方までは,火口底に溶岩塊が形成されるとともに継続的なマグマ噴火が進行し,主に火山弾,軽石片,火山ガラスなどが放出されるようになった.この時の噴煙も南東方向にたなびき,軽石片,火山ガラスからなる火山灰が降下し,東京においても降灰がみられた.この噴火の規模は9月1日の噴火をしのぐとの指摘もなされている. 今後の噴火の推移は不明であるが,以下のような可能性が考えられよう. (1) 噴火活動はすでにピークを越えており,このまま小規模な噴火を断続的に続けてとりあえずは終わる. (2) 噴火活動はこのまま続き,時々中規模噴火を交えながら,1930年代から1940年代のように頻繁なブルカノ式噴火を,今後数年から10年程度にわたって継続する(桜島火山と似たような状態になる). (3) 噴火活動が断続的に続くとともに,数ヶ月後に大規模噴火に移行する. ただし,これまで述べてきたように,噴火活動が今後大規模噴火に移行する可能性はきわめて小さいと考えられる.
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