1.浅間前掛火山とはWhat is the Asama-Maekake Volcano? 高橋正樹・安井真也・竹本弘幸(日本大学文理学部地球システム科学教室)
1-1 浅間前掛火山は浅間・烏帽子火山群の構成メンバー現在も活発に活動を続ける浅間前掛火山(狭義の浅間火山)は,1万年前以降に活動を開始した若い安山岩質の複成火山である.浅間前掛火山は,10万年前から2万年前の間に形成された黒斑火山と2万年前から1万年前に形成された仏岩火山の中間地点に噴出している. 浅間前掛火山は40万年間以上にわたって活動を続けてきた東西20km以上に延びる浅間・烏帽子火山群の構成メンバーであるが,その中では形成年代が最も新しい. 1-2 浅間前掛火山の地形図1-3は浅間前掛火山を南方の長野県側から眺めたものである.西側のやや侵食の進んだ山体が黒斑火山,東側の緩傾斜の斜面をもった山体が仏岩火山であり,その中間に聳えるお椀を伏せたような形態の山体が前掛火山である.写真Aの向かって左手手前の小丘は石尊山溶岩ドーム,右手の小丘が小浅間溶岩ドームであるが,それぞれ黒斑火山と仏岩火山の側火山であって,前掛火山との直接的関係はない.前掛火山の山頂部にみえる小丘は18世紀の大規模噴火時に形成された釜山火砕丘である.黒斑火山は活動末期の約2万3000年前に大崩壊し本来の山頂部が失われた.現在では,山頂部には馬蹄形のカルデラが発達している. 北方の群馬県側から眺めると,南斜面とは異なり規模の大きな溶岩流の発達がみられる(図1-4).それらは,4世紀の下舞台溶岩,12世紀の上舞台溶岩,そして18世紀の鬼押出溶岩である.黒斑火山と前掛火山の中間の湯の平に流下した丸山溶岩は4世紀の下舞台溶岩と同時期のものらしい.浅間前掛火山で火口から2km以遠にまで到達した規模の大きい溶岩はこれら以外にはみられない. 1-3 浅間前掛火山の構造図1-5は前掛火山および釜山火砕丘の内部構造を示したものである.一見溶岩のようにみえるが,何れも強く溶結した火砕岩からなる.Bは釜山火砕丘の内部を眺めたもので,矢印で示した部分が天明3年(西暦1783年)8月の大規模噴火時に形成された火砕堆積物の強溶結部である.このように,前掛火山の山体は主として強く溶結した火砕岩からなり,大規模噴火のたびに成長してきたことがわかる.火口から北側2km以遠にまで到達した溶岩流のうち,少なくとも天明大噴火時に流下した鬼押出溶岩と天仁大噴火(西暦1108年)時に流下した上舞台溶岩は溶結した火砕岩が再流動して2次的に流下したいわゆる「火砕成溶岩」である. 前掛火山は2次流動火砕岩をともなう基本的に溶結した大型の複合火砕丘であると考えられる. 「浅間火山」の名称について浅間火山は一般には黒斑火山と仏岩火山および前掛火山からなるとされている.しかし,この3火山は浅間・烏帽子火山群の1メンバーにすぎず,これらの火山だけを浅間火山としてひとくくりにしなければならない積極的理由はない.このことは荒牧(1968)においても指摘されている.しかし,現在では便宜上これらの3火山は一括して「浅間火山」とよばれている.本来は浅間火山の名称は現在活動中の前掛火山に限定すべきであると私たちは考える.
↑このページの最初へ
|
目 次 |
||||
*画像をクリックすると,新しいウィンドウで大きくしてご覧になれます. :最新情報 :新しいウィンドウが開きます. :外部にリンクしています.新しいウィンドウで開きます. |