火山災害危険地帯での無人化施工の必要性

長崎県の雲仙普賢岳は平成2年11月の噴火では火砕流・土石流が水無川下流地域に大量の土砂をもたらし、家や道路を埋めつくすという災害が発生しました。これらの被害を最小限に押さえるためには、大量の土砂を取り除かなければならず、火山活動が続く中で安全な施工法での工事が不可欠です。
このため建設省(現国土交通省)では、堆積した土砂を無人で取り除けるか調べるため、建設会社6社の協力のもと実際に無人化施工の現場実験を行いました。 この時の条件は以下の通りです。
1.100メートル以上の遠隔操作が可能なこと
2.一時的には温度100度、湿度100%程度でも運転可能であること
3.直径2〜3メートル程度の礫の破砕が可能

■雲仙普賢岳での無人化施工

 
この無人化施工は平成6年3月、島原市の水無川で一斉に始まり、1ヶ月間で計30000立方メートルの土砂を除去しました。人のいない作業現場で無人の掘削機、大型ブルドーザー、ダンプトラックなどの大型機械が動き回る様子はまるでSF映画のようです。
これらの作業は100メートル以上離れた移動操作室で、大型機械に搭載された複数の監視カメラから転送される映像を見ながら遠隔操作します。自動車のナビゲーションシステムにも利用されているGPS等を使い、どこをどのくらい掘るのかを指示していきます。その結果は移動操作室にいながら、すべて管理することができます。


無人化施工全景
無人化施工の全景
煙を上げている雲仙普賢岳の立ち入り禁止区域で行われる無人化施工

無人か重機
無人の重機で土砂の積み込み作業
大型ブルトーザーとトラック
大型ブルトーザーとダンプトラック

噴火後に起こる災害

雲仙普賢岳噴火(1990〜5年)、有珠山噴火(1978〜9年)では噴火の最中や、噴火後の降雨により泥流、土石流が発生しています。40年間も継続して噴火している桜島火山では、地表を覆う火山灰が無植生域を増加させるだけでなく、降水の流出も早めており、年に数十回も泥流・土石流を発生させています。
1990年7月の集中豪雨によって、熊本県阿蘇山では無数の斜面崩壊が発生しました。 阿蘇カルデラ東部ではカルデラ壁や根子岳、高岳の下に埋もれた鷲ヶ峰の斜面で崩壊が多発し、泥流・土石流が下流側の一宮町を襲いました。襲った場所は山間部ではなく、火山麓扇状地の扇央から扇端にかかるところにあたります。しかも、泥流により運ばれた莫大な量の樹木が流下したために被害を大きくしました。


1990年の豪雨によって下流側になぎ倒された植樹木と泥流跡
(熊本県一宮町佐渡ヶ迫上流域)

 

鹿児島にはシラスという約二万年前の火砕流堆積物が、厚く堆積して台地を形成しています。このシラス台地は雨に弱く、しばしば大きく崩壊して災害が生じます。最近では1993年鹿児島豪雨災害といわれる集中豪雨で、県内あわせて121名も亡くなりました。地形を無視した開発が被害を大きくしたといわれています。


阿蘇山や鹿児島のシラス台地に限らず、火山体を取り巻いて扇状地が発達するのは珍しくありません。桜島では泥流・土石流で運搬された火砕物が、しだいに昭和溶岩流を覆うようになり、火山麗扇状地を発達させます。このような火山麗扇状地の発達は、土石流・泥流が長期にわたって累積したことをあらわしています。この過程は火山体が解体期に至ってからも、ますます活発に継続されるので注意が必要です。


1993年8月6日の鹿児島豪雨によて浸食されたシラス台地
−鹿児島市小山田町
(写真;国際航空写真株式会社提供)