火山とまちづくり
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■火山灰がくらしに与える影響
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火山災害の要因となる火山灰は火山周辺だけでなく、地域全体に影響を及ぼします。
平成5年のフィリピンのピナツボ火山のように大規模な噴火の場合、大気圏にまで達した火山灰は、九州地方の梅雨明けを遅らせるなど、地球環境にまで影響を与えることもあります。
火山灰が地面に積もると雨水の浸透性を低下させ、土石流の原因になったり、植物や農作物の生長の妨げとなります。また海に流れ込むと海洋汚染の原因ともなります。
その他、降灰が及ぼす影響としては右図のようなものがあります。
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降灰が地域に及ぼす影響
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降灰は降るたびに除去する必要があり、散水車や吸引式の降灰専用車が出動します。しかし田畑、屋根、空地などに降った灰をすべて除去するのは不可能で、降灰は長く地域に影響を及ぼします。降灰に悩まされている鹿児島県では、その影響を避けるため屋根つきのプールや降灰に強い克灰住宅などの建設が行われています。
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克灰住宅
(写真;桜島町提供)
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撒水車
(写真;島原市提供) |
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■今後のまちづくりに必要なこと |
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長崎大学による島原市民への降灰に対するアンケートでは、降灰に対する市民の生活・健康・交通・職業面への影響が明らかにされています。
火山地域のまちづくりニーズは降灰をすみやかに除去することが望まれ降灰を防ぐシェルター、地下街、ドーム施設の希望は少ない結果となっています。 |
今後のまちづくりに必要なこと(アンケートによる)
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火山災害の法律はこれで良いのか?
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■自力復興の原則
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防災計画等の災害予防は自然と共存するために必要なことですが、どんなに防災計画をしても自然災害による被害は避けて通れません。
また災害からの復旧復興の最終目的は「被災者の自立復興(被害者が災害前の生活に戻ること)」です。
しかしわが国の法律では、災害で被害を被った被災者個人の損失について国や地方自治体が補償できないシステムになっています。
つまり被災者は、災害で壊れた自宅の建て直しなどの資金を自力で捻出しなければならないのです。これを「自力復興の原則」といいます。
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■国民の相互扶助の精神を法律に |
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この「自力復興」には限界があり、被害が大きいほど金策に無理が生じます。日本の法律では被災者に対し、低金利の資金を貸し付ける制度(災害対策資金貸付制度)は準備していますが、資金を無償で与える制度はありません。
大規模な災害にあった被災者が、災害後、長期間生活に苦しむのはこのためで、わが国の災害法制度の重大な欠陥になっています。
そこで雲仙普賢岳や北海道南西沖地震などでは、地方公共団体が創設した災害対策基金や義援金などで実質的な個人補償を行い、制度の欠陥を補いました。しかし、阪神大震災ではあまりに膨大な災害であったために、基金や義援金による被災者個人の救済が不可能な状態になっています。
これらの問題を解決するため、国保などの医療保険制度と同様の「国民災害保険制度」を作っては、という意見がでています。国民全員が毎年少しずつの保険料を積み立てて、その積み立金をもって被災者個人に建物の再建資金などを無償で与え、被災者の自立復興を援助しようというものです。国民の相互扶助の精神を法律で制度化しようというものです。 |
義援金の配分(写真;島原市提供) |
特別立法東京陳情出発式(写真;島原市提供) |
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景観に配慮した災害施設
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火山は観光資源としての価値が高いものです。しかしむき出しの自然は時に強暴でさえあり、火山には砂防ダムや導流堤などの建設が必要になります。観光資源としての価値を損なわずに人々の安全を確保するには、災害施設に以下の視点が望まれます。
1)災害施設としてのコストパフォーマンスが高い
2)工事による自然景観や生態系への影響を最小限に押さえる
3)構造物自体が自然環境と調和するデザイン、材質とする
火山の防災施設は、コンクリートやスチール等の人工材料で作られます。景観配慮の工夫としては砂防ダムの表面に石材を貼りつけたり、構造物が観光スポットに居る人の視界に入らないよう配慮されたりしています。共通の美意識に裏打ちされた景観を考慮した防災施設の建設は、火山工学に期待される成果のひとつです。
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景観構造の区分(円井英明による)
火山は活動時点で岩石圏、地表形態といった無機的自然景観を呈するが、時と共に生物的環境の形成により有機的自然景観へと変化していく。観光の対象として道路や観光施設を建設すると文化景観の要素も加わります。火山の景観的価値をどこに置くかにより防災施設のデザインコンセプトは変化するが、最近の“人工”から“自然”の見直しの流れを見ると、前二者の比重が高まると思われる。
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a.下流側から見たダム越流部(1992年)
スリットの鋼管は溶岩と同色の塗装
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b.ダム堆砂状況(1992年)
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c.フェリーからの桜島の眺望(1993年)
ダムはほとんど見えない
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桜島引ノ平砂防ダム(写真;北村良介(鹿児島大学)提供) |