火山災害の履歴図と予測図

ある山の噴火形式や噴火による災害履歴を知ることは、火山防災上非常に重要です。規模の大小の違いはあっても噴火形式は似ているので、過去の噴火形式の履歴をもとに近い将来の噴火形式、さらには災害形態を予測できるからです。

右図の雲仙普賢岳の例のように、一連の火山活動の過去の「火山災害履歴図」(ディザスターマップ)をもとに、次に起こる可能性のある災害を予測する「火山災害予測図」(ハザードマップ)を作って災害防止に使っています。

ハザードマップには、次の3つの要素を盛り込みます。
(1)発生する災害のタイプ(タイプ)
(2)タイプ別の災害の及ぶ場所 (場所)
(3)被害を受ける危険度ランク(危険度)

南米コロンビアのネバド・デル・ルイス火山では、1985年の大噴火の前にハザードマップが作成されて危険な範囲も明らかにされていたにも関わらず、25000人もの人々が火山泥流に巻きこまれ亡くなりました。 これは行政側の不理解により、危険性が住民にまでよく伝わっていなかったためです。
災害を未然に防ぐためには、行政と住民個人双方が常に災害に対する危機意識を持つことが大切です。

普賢岳災害履歴図
雲仙普賢岳の災害履歴図(1993年5月4日)
火砕流の周りに熱風が到達して焼けただれた地区が広く分布しています。
(写真;千葉達朗(アジア航測株式会社)提供)

普賢岳災害予測図
雲仙普賢岳の災害予測図(ハザードマップ)
(島原市提供)

 


火山被害から住民を守るには

■火山災害防止のための計画

 
火山災害防止のための計画は、それぞれの火山において発生する可能性の高い火山現象を取り上げ、その現象ごとに防災のための対応計画をします。
特に土木構造物を主とするハードウェアの対応と、避難体制の確立等を主とするソフトウェアの対応を総合的に組み合わせた計画が必要です。
災害防止工は対象現象により異なりますが、主なものとしてハード面では砂防ダム工、流路工、導流堤、遊砂地、山腹工等があります。ソフト面では火山災害予測区域図の作成、警戒避難体制の確立、土地利用規制等があります。

火山泥流対策施設概念図
火山泥流対策施設の配置に関する概念図

■雲仙水無川の防災計画

 

発生現象として、火砕流と土石流を想定しています。 火砕流についてはその発生過程からメラピ型(溶岩ドームの崩落に伴う型)とし、災害予測区域図を策定し、流下 区域を予測し、避難を実施する基礎資料を作成し関係市町村に伝えました。各市町村長は、それをもとに災害対策基本法による警戒区域および避難勧告区域の設定をしています。
土石流については災害予測区域図による警戒避難区域を設定し、ソフト面の対応の資料とするとともに、降雨により流出する土砂を対象として計画されています。

1995年5月には導流堤、遊砂地、本川河道改修が施工され、続いて1号砂防ダムが着工。将来は土石流対策が実施され、火山災害に対して、安全かつ緑豊かな町づくりを目指しています。

普賢岳
雲仙普賢岳では地域の安全の確保と復興のための防災計画が進められています
(写真;国土交通省提供/1995年4月撮影)


火山災害時の避難に求められること

火山噴火による火砕流や溶岩流などの現象は移動速度が速く、大規模となるため、発生してからの避難や応急的な施設では、人命や財産を守ることは不可能です。
火山災害から人命の安全を守るには、災害予測区域を警戒区域および避難勧告地域にし、あらかじめ避難しておかなければなりません。
警戒区域や避難勧告地域の設定には、火山活動の状況とともに火山災害予測図(ハザードマップ)が参考にされます。
火砕流の危険がなくなるまでには長い時間がかかるので、長期避難対策として仮設住宅などの建設が必要です。

山腹に火山灰が堆積した火山の周辺では、少ない雨量で土石流が発生します。
土石流の流れや速さは規模により異なりますが、時速50km程度で流域の家屋や田畑を埋めつくします。土石流の避難対象区域は、過去の土石流実績や土石流災害予測図をもとに設定されます。
避難は市町村により避難勧告が発令されたときに行い、原則として徒歩で町内ごとに指定された避難所に移ります。雨が止めば土石流の危険性はなくなるので、避難勧告は解除されます。しかし大雨がふるたびに避難する必要があり、お年寄りや病人などの災害弱者対策や警戒心が緩まないようにすることが大切です。
災害に対しては地震、火山噴火、豪雨、それぞれ対応した的確な避難訓練を定期的に行うことが防災の基本です。

伊豆大島避難島民
伊豆大島から避難する島民/1986年噴火

警戒区域立入禁止看板
警戒区域への立入禁止の立て看板(島原市提供)
警戒区域に市町村長の許可無く立ち入ると災害対策基本法63条により処罰される