火砕流とシラス

■恐ろしい災害を引き起こす火砕流

 

火砕流は火山噴火の中でも最も恐ろしい災害を引き起こすもので、雲仙普賢岳の噴火で広く知れ渡りました。
火砕流の温度は600℃を超え、流速は時速100キロメートルに達することもあります。
火砕流の発生規模は様々ですが、雲仙普賢岳で起こった火砕流は発生源から5キロメートル程の流下で最大規模のものでも100万立方メートル程度と比較的小規模の火砕流です。

普賢岳と火砕流
雲仙普賢岳と火砕流

■大規模な火砕流−シラス

 

シラスと呼ばれる火山灰の土壌は、鹿児島湾の北部を噴出源として約22000年前に起こった最大級の火砕流噴火の産物です。
この噴火では雲仙普賢岳の10万倍の体積の火砕流が発生して、噴出源から100キロメートル以上遠くまで流れ広がりました。大量の灰かぐらは成層圏まで達し、偏西風に乗って北海道を除く日本列島の大部分や北大西洋の海底に降りそそぎました。この噴火から火砕流の発生までは数日間と言われ、南九州の生き物は一瞬にしてその命を奪われました。
シラスのような大規模火砕流は日本列島では一万年に2、3回、また雲仙普賢岳クラスの小規模なものでは100年に1回程度起こるとされています。

シラス分布図
鹿児島湾周辺のシラス分布域
(荒牧重雄(東京大学名誉教授)提供)

目に見えない火山ガス

■火山ガスとは

 
火山ガスは地下深部に存在するマグマ中の揮発成分が分離・上昇してきたもので、通常は火山地帯の噴気孔などから放出されています。この火山ガスは噴火の際に爆発の原動力となります。
その成分の大部分は水蒸気(H2O)で、高温の場合には更にフッ化水素(HF)、塩化水素(HCl)、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)などの有毒ガスや二酸化炭素(CO2)、窒素(N)、水素(H2)、アルゴン(Ar)などを含んでいます。低温ガスの場合はH2S、CO2、N2などのみからなり、その成分の組み合わせ、濃度比などが異なります。
近年、この火山ガス成分と温度の関係を利用して火山活動の活発度を推定し、火山噴火の予測を行う試みが進められ、草津白根火山と鹿児島県の桜島火山で火山ガスの連続観測が続けられています。

万座空噴噴気孔
危険な硫化水素ガスを多量に含む万座空噴噴気孔
(写真;小坂丈予(東京工業大学名誉教授)提供)

■火山ガスと中毒事故

 
火山ガスには毒性のあるガスが混入しているため、時折死亡事故が発生しています。そこで頻繁に中毒事故の発生した草津白根火山の周辺では火山ガス危険予測図を完成させ、これを一般に配布して旅行者や住民の注意を促し、危険予想地域には柵と立て札をたてて立ち入りを禁止しています。また高濃度のガスを検知し、自動的に警報を発する装置を危険予想地域に設置しました。
これらの対応によりその後同火山の周辺地域では火山ガスによる中毒死は1件も発生していません。

火山の水蒸気爆発

■マグマと水の接触による破壊的な噴火  

高温のマグマが地下水や湖水、海水などと接触すると、非常に激しい爆発を引き起こします。
1983年の三宅島の噴火では、山腹から始まった割れ目火口が南南西に長く伸び、山麓まで広がりました。新澪池の山側ではマグマは地下水と接触して黒い噴煙を上げ、東側に降下した細かい火山灰は水分を含み植生や作物に付着しました。さらに割れ目が新澪池のわきに進み、マグマが湖水と接触してマグマ水蒸気爆発を発生しています。
このマグマ水蒸気爆発は、溶岩からなる厚い岩盤をぶち抜いて爆裂火口を形成し、火口からCockユs tail jests(鶏尾状ジェット)が繰り返し噴出したため周囲の森林がほぼ完全に破壊されました。ジェットは低温で水を含み、岩塊に富む直径数メートルもの噴出物を周囲に落下させました。割れ目は海中にまでおよび、タフリングと呼ばれる輪のような形をした島を新鼻の南側に形成しました。
このように1983年の三宅島噴火では、マグマと水の接触の程度の違いによる噴火の特徴の差が割れ目火口の位置によって明確になりました。

三宅島タフリング
三宅島1983年噴火のマグマ水蒸気爆発によって形成されたタフリング
三宅島溶岩噴泉
阿古から見た三宅島1983年噴火の溶岩噴泉
(写真;遠藤邦彦(日本大学文理学部)提供)