速報4 粒度分布と構成物からみた浅間山2004年噴火の火山灰長井大輔・千葉 崇・吉武大輔・遠藤邦彦(日大文理)・大里重人((株)土質リサーチ) Grain Size Distributions and Component Materials of Volcanic Ash Daisuke Nagai, Takashi Chiba, Daisuke Yoshitake, Kunihiko Endo (Nihon University),
1.はじめに2004年9月1日20時02分に浅間山が噴火を開始した.浅間山は昨年2003年3月30日及び4月7日に小噴火を起こした後,地震活動は停滞していたものの、噴火前日には再び活発化していた.9月1日の噴火は1983年以来の中規模噴火で,噴煙は山頂から3500〜5500mまで上がり,約260km離れた福島県相馬市でも降灰が確認された.噴火はその後静穏な状態が続いていたが,9月14日及び15日に再び小噴火を起こし,16-17日には連続的に噴火を多発させた.これらの火山灰は南方に流れ,17日早朝には22年ぶりに首都圏に降灰が確認された.また,同月16日に行われた航空機による観測によって,浅間山山頂の火口底にドーム状の地形が確認され,溶岩の噴出が報告された.その後,9月23日には中規模噴火が再び起こり,9月29日,10月1日,10月10日に小規模な噴火が断続的に起きている. 2.試料と手法2004年9月1日の浅間山の噴火開始を受け噴火直後より現地に入り.主に9月1日の降灰が顕著であった長野原町及び嬬恋村を中心に火山灰を採取した.9月1日噴火の火山灰は,1日深夜から2日にかけての雨で大半が流されていたが,一部で保存の良い火山灰が採取できた.9月15-17日の火山灰は,その降灰方向にあった中軽井沢で火山灰トラップを設置して採取した.9月23日の火山灰は,日大文理(地球システム科学科)の大野希一氏が翌日の現地調査で採取したものを提供して頂いた.10月10日の火山灰は,その分布方向であった嬬恋村より採取した.これらの試料のうち,降灰の主軸に近く火口からの距離がほぼ等しい地点の代表試料について,ふるい及びレーザー回折式粒度分析装置(島津製作所製SALD3000S)を用いて粒度分析を行った.その後,井口・目崎(1974)の手法に基づく粒度分布解析プログラム(佐々木ほか,2003)を用いて粒度分布を小集団に細分し,粒径毎の構成物を実体顕微鏡で観察した.特に火山灰に含まれる軽石については,その特徴を電子顕微鏡で観察した.また,同様な分析を1783年天明噴火の大規模噴火前(大噴火の約1ヶ月半前)に降った火山灰についても行い,類似性を検討した.火山灰試料の採取地点を図1に示す. 3.火山灰の粒度分布粒度分析の結果を図2〜6aに示す. 2004年の9月1日の火山灰は,平均粒径が2φ(0.25mm)前後の砂サイズからシルトサイズまで含む火山灰である.2004年の9月16-17日の火山灰は,平均粒径が3φ(0.125mm)前後の細砂からシルトサイズを主体とする火山灰である.2004年の9月23日及び10月10の火山灰は,平均粒径が2φ(0.25mm)前後の砂サイズからシルトサイズまで含む火山灰で,ヒストグラムには1φ(0.5mm)前後と4φ(63μm)前後に顕著なピークがみられる.
4.粒度分布小集団と構成物粒度分布解析によって2004年9月から10月にかけての火山灰は, 3〜5つの小集団に細分される(図2〜6b).それらを実体顕微鏡で観察した結果,それぞれの小集団は異なるタイプの構成物から構成されていることが分かった.9月1日火山灰のヒストグラム(図2)にみられる2φ(250μm)のピークは、主に緻密な暗灰色火山岩片から構成される(写真2).これらは主に、黒豆河原や長野原町に飛散した噴石と同じような特徴をもつ火山岩片である.また,3φ(125μm)にあるピークは,主に黒色のガラス質火山岩片や結晶,灰白色軽石から構成される(写真3).一方、9月16-17日の火山灰のヒストグラム(図3)にみられる4φ(63μm)のピークは,主に半透明〜灰白色の軽石である(写真4). 同火山灰には9月1日のものにみられた緻密な暗灰色火山岩片はほとんど含まれなくなっている.また,軽石だけみると9月1日噴火火山灰に含まれる軽石よりもやや粗粒になり,火山灰中に占める割合も多くなっている.9月23日以降の火山灰は,火山岩片主体の火山灰となり,軽石の割合が減少している(図4,図5,写真5〜7).1783年天明噴火の降下軽石直下にある火山灰は,火山岩片主体の火山灰で,3φ(125μm)にあるピークは,主に黒色のガラス質火山岩片や結晶,灰白色軽石から構成される(図6,写真8〜9). 5.まとめ
2004年9月から10月の火山灰について分析した結果,構成物の変化と共にその粒度分布の特徴も変化していることが分かった. 1) 2004年9月1日の火山灰火山岩片を主体とする火山灰で灰白色軽石片(写真10〜12)や微細な透明火山ガラス片を少量(12%程度)含む.
2) 2004年9月16-17日の火山灰2004年9月1日でみられた緻密な火山岩片は乏しくなり,新たに半透明の微斑晶入り軽石片を主とする均質で淘汰のよい火山灰に変化した.火山灰に含まれる軽石の量が85%以上となり,軽石だけをみるとその粒径が粗粒化し,発泡の良い軽石がみられるようになった(写真13〜15,図7).これらの軽石の形態は,1783年天明の大噴火前に降った火山灰と類似する伸張性のある発砲の良い軽石である. 今後,小〜中規模噴火で終わった1973年及び1982年噴火の火山灰との比較も必要である.
3) 9月23日,10月10日の火山灰その後火口内で溶岩の出現が確認されて以降(9月23日,10月10日),火山灰中に軽石は少なく,溶岩片を主体とする火山灰に変化している.軽石も細粒化し発泡度の低いものに変化した(写真20〜22).これらは主に,火口底をふさいだ溶岩が部分的に吹き飛ばされて生じたものと思われる.今後も火口底をふさいだ溶岩や火砕物の下に火山ガスがたまって,小〜中規模の噴火を断続的に行う可能性は高い.今後新たに揮発性成分に富むマグマが上昇してこないかどうか,地殻変動や噴出物の変化に十分に注意を払う必要がある. 謝辞本稿で使用した9月23日噴火の火山灰試料は,日本大学文理学部地球システム科学科大野希一氏より提供して頂いた.また,電子顕微鏡での観察において,同学自然科学研究所の村田泰輔氏にご協力を頂いた. 尚,本稿の内容は2004年日本火山学会秋季大会にて発表したものをまとめたものである. ↑このページの最初へ
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