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速報1 2004年9月1日および16日噴火噴出物の調査報告

長井大輔・吉武大輔・千葉崇(日本大学文理学部地球システム科学科)

1.はじめに
2.試料と手法
3.火山灰の粒度分布
4.火山灰の構成物
5.まとめ
6.課題

1.はじめに

2004年9月1日20時02分に浅間山が噴火を開始しました.浅間山は昨年2003年3月30日及び4月7日に小噴火を起こした後,地震活動は停滞していたものの、噴火前日には再び活発化していました.9月1日の噴火は1983年以来の中規模噴火で,噴煙は山頂から3500〜5500mまで上がり,約260km離れた福島県相馬市でも降灰が確認されました.噴火はその後静穏な状態が続いていましたが,山頂に火映現象が頻繁にみられるようになり、9月14日及び15日に再び小噴火を起こし,16-17日には連続的に噴火を多発させました(写真1〜9).これらの火山灰は南方に流れ,17日早朝には22年ぶりに首都圏に降灰が確認されました.また,同月16日に行われた航空機による観測によって,浅間山山頂の火口底にドーム状の地形が確認され,新しいマグマの噴出が報告されました.

写真1 9月1日20:02の長野原町の降灰状況 撮影:吉武 写真2 北軽井沢(火口から北東に9km)からみた9月2日の噴煙の状況 撮影:吉武 写真3 黒豆河原(火口から北東に4km)からみた9月5日の噴煙の状況 撮影:吉武
写真4 浅間園(火口から北北東に4km)からみた9月6日の噴煙の状況 撮影:吉武 写真5 大笹(火口から北北西に10km)からみた9月15日11:58の噴火 撮影:長井 写真6 鬼押出し園付近(火口から北北東に4km)からみた9月15日23時頃の火映現象 撮影:長井
写真7 嬬恋村(火口から北北西に10km)からみた9月16日の連続的な噴火 撮影:吉武 写真8 万山望展望台(火口から東南東に5km)からみた9月16日の噴火降灰主軸付近からみた浅間山 撮影:吉武 写真9 北軽井沢(火口から北東に10km)からみた9月16日夕刻の噴煙の状況 撮影:吉武

2.試料と手法

浅間山の噴火開始を受け直後の9月1日夜より現地に入り.主に9月1日の降灰が顕著であった長野原町及び嬬恋村を中心に火山灰を採取しました(写真10).9月1日噴火の火山灰は,1日深夜から2日にかけての雨で大半が流されてしまいましたが,3日の夜までに掃除されていないウッドデッキや橋梁,移動していない自動車のボンネット等で保存の良い火山灰が採取できました.9月15-17日の火山灰は,その降灰方向にあった中軽井沢町で火山灰トラップを設置して採取しました.これらの試料のうち,火口からの距離がほぼ等しい地点の代表試料について,ふるい及びレーザー回折式粒度分析装置(島津製作所製SALD3000S)を用いて粒度分析を行いました.また,火山灰の構成物を実体顕微鏡で観察しました.

写真10 長野原町(火口から北東に5.5km)における9月1日火山灰の採取風景 撮影:千葉 写真11 黒豆河原(火口から北東に4km)に飛来した9月1日噴火の噴石 撮影:長井

3.火山灰の粒度分布

粒度分析の結果の一例を図1,図2に示します.9月1日の噴火と9月15-17日の噴火による火山灰の粒度分布を比較するために,火口からの距離がほぼ同じ地点で採取されたものを選んで結果を示しています.採取地点は,9月1日の火山灰のものについては火口から北東に約5〜6km離れた長野原町で採取されたもの.9月15-17日の火山灰は,火口から南東に約5.5km離れた中軽井沢で採取されたものです.2004年の9月1日の火山灰は,平均粒径が025mm前後の砂サイズからシルトサイズまで含む火山灰です.2004年の9月16-17日の火山灰は,平均粒径が0.125mm前後の細砂からシルトサイズを主体とする火山灰で,9月1日の火山灰よりも細粒で淘汰がよい火山灰です.

図1 2004年9月1日噴火の火山灰の粒度分布 図2 2004年9月16-17日噴火の火山灰の粒度分布

4.火山灰の構成物

図1,図2に示した火山灰試料について火山灰の構成物を実体顕微鏡で観察しました.9月1日火山灰のヒストグラム(図1)にみられる0φ(1mm)のピークは、主に緻密な暗灰色火山岩片から構成されています(写真12).これらは主に、黒豆河原や長野原町に飛散した噴石(写真10)と同じような特徴をもつ火山岩片です.また,4φ(63μm)にあるピークは,主に黒色のガラス質火山岩片や結晶,灰白色軽石からなります(写真13).一方、9月15-17日の火山灰のヒストグラム(図2)にみられる3φ(125μm)のピークは,主に半透明〜灰白色の軽石です(写真14).9月1日の火山灰にみられた緻密な暗灰色火山岩片はほとんど含まれなくなっています.また,9月1日噴火火山灰に含まれる軽石よりもやや粗粒になり,火山灰中に占める割合も多くなり,軽石主体の火山灰に変化しています.

写真12 9月1日火山灰中にみられる暗灰色火山岩片
1〜2mm粒子を観察
写真13 9月1日火山灰中にみられる灰白色軽石
63〜125μm粒子を観察
写真14 9月16-17日火山灰中にみられる半透明から灰白色の軽石と結晶片
125〜250μm粒子を観察

5.まとめ

2004年9月1日から17日の火山灰について、粒度分析と構成物の観察を行った結果,火山灰の構成物の変化と共にその粒度分布の特徴も変化していることが分かりました.2004年9月1日の火山灰は,緻密な暗灰色火山岩片と黒色ガラス質岩片を主体とし,軽石を主体とする粒径は,4φ(63μm)あたりで,全体の10〜20%前後を占めていました.

9月16-17日の火山灰は,9月1日でみられた緻密な火山岩片は乏しくなり,新たに灰白色〜半透明の軽石を主とする均質で淘汰のよい火山灰に変化しました.軽石を主体とする粒径は,3φ(125μm)あたりで,軽石だけを比較すれば,9月1日のものよりやや粗粒化し,火山灰中に占める割合も85%以上とかなり多くなっています.

6.課題

本速報で使用された火山灰試料の分析結果は,測定地点数の点で不十分でありますが,噴火の推移を推測する上でできるだけ迅速に分析結果を公表したほうがよいという主旨で,本速報を作成しました.今後の噴火に着目し,新たな発見があった場合は随時報告したいと思います.

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