速報2 浅間山2004年9月23日噴火の報告日本大学・都立大学・信州大学・神戸大学合同調査チーム
1.はじめに2004年9月23日19時44分頃,浅間山は9月1日以来の中規模噴火を起こした.このページでは,この噴火によって降下堆積した火砕物の堆積産状や,その分布の特徴について報告する.なお,この調査は日本大学の他,都立大学,信州大学,神戸大学のメンバーにより,合同で執り行われた. 2.調査日と手法我々は噴火開始からおよそ8時間後の9月24日午前5時30分頃に現地入りし,調査を開始した.9月24日午後12時過ぎまでは大野(日大)が調査を行い,引き続いて大石(都立大),高橋(信州大),上野(神戸大)が相次いで現地入りし,調査を継続した.その後の天候悪化に伴う降灰量の定量化の精度の低下を考慮し,調査は24日中に終了させた.当日は42箇所の地点で降灰を観察し,降灰量の多い場所や条件のよい場所については,一定面積あたりに降下した降灰を採取し,単位面積あたりの降灰量を求めた.場所によっては堆積量が微少であったり,細粒粒子が多く含まれていたため,試料の採取にあたっては,ほうきとちりとりを駆使して地表面に張り付いた火山灰も採取し,測定精度の向上に努めた.なお,実験室内における試料の処理と定量の大部分は井田貴史氏(日大文理地球システム科学科)にお手伝い頂いた.記して御礼を申し上げる. 3.降灰状況写真1,2,3は,火口から北北東に6.2〜7.1kmの地点で認められた降下火砕物の産状である.調査範囲の中でも比較的給源火口に近いこれらの地点では,火砕堆積物は細粒火山灰層の上に直径1〜2cmに達する黒色岩片を主体としたレキが点在する,といった産状を呈する.これらのレキには茶褐色の軽石片が含まれる(写真2)事があるが,量的にはわずかである(1%>).給源火口から離れるにつれて,このレキの粒径は急激に小さくなる. 写真4は,火口から8.83kmの場所で認められた9月23日火砕物の堆積産状で,この場所は後述する降下火砕物の等重量線図の”目玉”ふきんに位置する.この地点では, 火砕堆積物は赤褐色を呈する細粒火山灰の上に,直径2mm程度の細レキ〜極粗粒砂が複数個集まった集合粒子が点在するといった産状を示す.赤褐色を呈する細粒火山灰は,細レキ〜極粗粒砂の集合体を取り巻くように産する(写真5). 降灰域では,火砕物がべっとりと木の葉に付着しているほか,看板やガードレールといった垂直なものにも張り付いている(写真6).また,堆積量が多い分布軸ふきん(写真7)では,道路上に堆積した火砕物が車によって大量にまきあげられていた. 3.分布図1は9月23日19時44分頃の噴火に伴う降灰の等重量線図である.黒色および青色で示した地点は日大が,赤で示した地点は都立大,信州大,神戸大がそれぞれ調査した地点である.9月23日噴火の降灰は主として北北東方向に分布軸を持つ.降灰の分布限界は,浅間山の北から北東方向の比較的広い範囲に及ぶ. 西側の降灰の分布限界は比較的精度よく追跡できたが,東側の降灰の分布限界は9月1日の降灰の分布域と重複しているため,厳密にその境界を決定することは出来なかった.降下火砕物は,火口からおよそ9km度北北東に位置する嬬恋村立野ふきんを中心に,北北東に延びた堆積量の極大値(”目玉”)を持つ.また,火砕堆積物中に認められたレキの最大径(ML)の分布軸は,降下火砕物全体の軸(北北東)の方向とは一致せず,やや北東方向にシフトすると推定される(測定点が少ないため,図化していない).23日20時における軽井沢測候所の風向・風速は,南南西からの風1.3m/s,また田代アメダスの風向・風速は,静穏で0m/sであり,この噴火イベントの発生時,浅間山周辺は風の弱い,穏やかな気象状況にあったことがわかる. この等重量線図から,8g/m2コンター以内に堆積した火砕物の堆積量を算定した.堆積量の算定にあたり,火口近傍域やコンターが閉じていない8および16g/m2のコンターは,コンターラインをなめらかに外挿してその分布面積を推定した.8g/m2未満のコンターは遠方域での自由度があまりに大きいため,堆積量の算定から外した.上記範囲に堆積した火砕物の量は,約7.2×106kg(約7200トン)となる.この見積もり値は,火口近傍域や遠方域に飛来した火砕物量を含んでいないことから,正味の総堆積量は数万トンに達する可能性がある. 4.降灰分布の特徴降下火砕物は分布軸の西側に薄く広く拡散している.これは,噴火当時浅間山周辺の風が弱かったことに起因すると思われる.高く上昇した火砕物は,上空の風向の影響を受けて北北東方向に堆積したが,あまり高所まで上昇しなかった火砕物は,弱い局地風によって地表付近を薄く広く拡散したのであろう. 降下後の雨滴の影響が少ないところでは,細粒火山灰の中に細レキ〜極粗粒砂サイズの複数の粒子からなる集合体が認められたこと,細レキの周囲を細粒火山灰が取り巻くように産することから,火砕物は細レキ〜極粗粒砂サイズの粒子を核として,その周囲に細粒火山灰が付着した凝集体として降下したと思われる.凝集体そのものの原形が残されていないこと,降灰域では火砕物が垂直なものにも付着していたこと,噴火当時は浅間山の北麓で降水が認められたことから,火砕物は泥雨のような水に飽和した状態で地表に降下した後,地表にぶつかった衝撃でもともとの凝集形態が壊された可能性が高い. 凝集体としての火砕物の降下は,局所的な堆積量を著しく増加させる.つまり,9月23日火砕物に認められた堆積量の”目玉”は,火砕堆積物が凝集体としてこの地域に選択的に降下堆積したことを暗示する.凝集体の中には細レキサイズの比較的粗粒な粒子も含まれていることから,粒子の終端速度を考慮すると,凝集体は火口近傍域で形成されたものが運搬されて堆積したのではなく,“目玉”の上空で形成され,そこから地表に降下したのであろう. これらの特徴を説明する火砕物の定性的な降下モデルは,以下のようになる(図2).噴煙の上昇に伴って発生した上昇気流によって,噴煙の周辺に新たに雲が発達する.この雲は,上空の風によって,噴煙と共に風下側に流される.雲の中では,雲粒に火山灰粒子が付着することによって随時凝集粒子が形成され,終端速度が大きくなったものから順次噴煙から取り去られていく.噴煙の移動と同時に雲粒自体も成長し,雨滴となる.立野付近に達すると,雲粒から成長した雨滴に,細レキを含む火砕物が凝集することによって,短時間の間に効率よく大きな凝集体が形成され,この地域に選択的に降下した.雨滴の成長はさらに継続したが,降下すべき噴煙内の火砕物量が減少したため,その後堆積量は火口からの距離と共に減少した.
更新日:041026「4.降灰分布の特徴」追加 ↑このページの最初へ
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