「気象状況からみた富士山スコリアの飛散」山川修治 2010年12月15日早朝,神奈川県南部に降った黒い物質(スコリア)に関して,気象の側面から探ってみたいと思います。富士山監視カメラによれば,15日06:45頃から発生した砂塵嵐が原因だったとみられます。その直前にあたる06時の天気図(図1)をみると,先行するメインの寒冷前線に付随した二次前線(サブ的な寒気団を伴う)のトラフ(気圧の谷;赤の破線)がちょうど富士山付近を通過しています。それに伴う擾乱(小スケールの低気圧)が第一の発生要因と考えられます。そこで06時の対流圏下層850hPaにおける上昇流(再解析図)の分布,ならびにその前後のウインドプロファイラ(電波によって上空の気流を観測する)図で検討してみました。 06時の上昇流の分布図(図2)によれば,最大4m/sに近い激しい上昇流域が山梨県北西方から富士山方面へ接近中であることがわかります。また,河口湖(富士山の北麓)のウインドプロファイラ図(図3)から,06:30頃まで続いた下降流から上昇流へ移行し,かつ,上空のジェット気流の強化とも連動して,上昇流域(図2の山梨県付近における顕著な上昇流域に対応)に入って間もなく,富士山の東斜面で局地的な激しい上昇流が生じても不思議ではない状況だったと考えられます。 その3時間後,15日09時の地上天気図(図4)によれば,二次前線のトラフは関東南岸へ南東進し,いわゆる「房総不連続線(冬型気圧配置時に関東地方南部を東西に走る気流の収束線;時に天気の急変をもたらす)タイプ」になり,神奈川県南部付近で気流が収束しやすい状況となっています。そのトラフの通過以外は気圧配置に大きな違いがみられないため,やや広域から850hPaと700hPaの天気図,ならびに浜松のエマグラム(横軸に温度,縦軸に高度・気圧をとって気温・露点温度・風等をプロットした図)の状況を点検してみましょう。 850hPa天気図(図5)では,強風軸が富士山の南側にあり,富士山付近では低気圧性の渦が生じやすい状況となっています。また,700hPa天気図(図6)では,ちょうど富士山付近を下層ジェット(高度およそ3km以下で吹く15〜25m/s以上の強風)が吹いています。それより下の気層では下降流に伴う渦を引き起こし,ひいては風下側で剥離流(一般風とは逆向きの流れ)といわれる東斜面を昇る流れを誘発しやすい状態だったとみられます。 浜松の高層観測データ(図7)によれば,780〜750hPa(2000〜2500m)に逆転層(上空ほど高温な気層)があり,その風下でカルマン渦(孤立峰の風下で内側へ回り込む対称性のある渦列)に類似した渦巻が富士山の東斜面で生じやすい状況であったことが推測されます。 以上のことから総合的に判断して,二次前線のトラフ通過で砂塵嵐が「つむじ風」となって発生したと考えられます。そして,富士山東斜面において,地表あるいは積雪下の細かいスコリアを含む表層部が雪ごと巻き上げられ,それが強い下層ジェットの西風で東方へ運ばれ,神奈川県南部に位置していた二次前線のトラフの先端部(収束線)まで移動したところで下降流とともに落下した可能性があります。 更新日:101224 ↑このページの最初へ
「12月15日の富士山」遠藤邦彦 12月15日に神奈川県下に黒い砂粒が降り、どこからどうやって飛んできたのか話題になっています。富士山から強風によって飛んできた火山灰ではないかとも言われています。 富士山にはスコリアと呼ばれる、穴だらけの黒い粒子が多く堆積しています。しかし噴火でもなければそれが遠方まで飛んでくることは起こりません。また富士山には雪があり、地面も凍結している可能性があります。 そこで、同日の富士山の様子を日本大学富士山監視カメラで見てみました。 日本大学文理学部の山中研修所のカメラからの画像を動画に編集してみると、この日は強い西風があったはずですが、富士山の東側斜面では早朝から、うっすらとしていますが、地表から上空に舞い上がるような上昇流が認められます。8時頃にはその動きはかなり明瞭です。このように富士山の山麓部から上方に吹き上がる風によって地表の粒子が高く舞い上がれば、上空の強い西風によって東方に運搬されることが十分に考えられます。 神奈川県に降った粒子に黒い穴だらけの粒子(スコリア)が沢山確認されれば、富士山から飛んで行った可能性は高いと思われます。 次にこの日の気象条件が問題になりますが、それは気象の専門家にお願いします。 写真1は大風の吹いた15日の朝から翌16日の夕方まで山中湖から見た富士山の写真。 写真2は大風の吹く前11日の朝から夕方までの写真。
写真3は大風の吹いた15日の朝から夕方までの写真。
写真4は大風の吹いた翌日16日の朝から夕方までの写真。
更新日:101222 ↑このページの最初へ
「黄砂のベール」を捉えた!遠藤邦彦 福島県の千葉茂樹さんから、5月21日に「黄砂のベール」を捉えた可能性の強い写真が送られてきましたので、検討してみました。 5月21日~22日、日本列島には黄砂が広く到来しました。気象庁黄砂情報でも21日には全国的に28地点で黄砂が観測され、内福島県では4地点で認められました。22日にも24地点で観測されています。 千葉さんのコメントと写真は次の通りです。 ”21日はこちら福島も黄砂で遠景が霞んだ1日でした。夕方、吾妻火山の噴気を撮影しに観察定点に行きました。夕方は、逆光なので遠景も良く見えます。その際に吾妻連峰の両側の峠(南北)付近に霞状の雲?がありました。吾妻連峰の辺りは相対的にクリアでした。特に北側は太陽の日没方向のため、はっきりと見えました。状況から考えて、福島盆地に流れ込む「黄砂のベール」ではないかと思います。” 以下は、山川修治教授によるこの日の黄砂についてのコメントです。 赤外画像ですので明確ではありませんが、三陸沖の低気圧と前線の西側の晴天域に位置する日本海や中央日本以北において、薄っすらと黄砂のベールが認められ 、福島県付近はやや濃い目の黄砂が到来していることを読み取ることができます。(画像:高知大学Web-site による) 更新日:100607 ↑このページの最初へ
アイスランド火山灰アイスランド火山灰プロジェクトチーム アイスランドで採取された火山灰を千葉達朗さんが入手されました。勿論この4月-の噴火の火山灰です。 この火山灰についてプロジェクトチーム(千葉・中尾ほか)では早速デジタル顕微鏡で観察しました。 屈折率1.4くらいの浸液に封入して観察されました。凝集していた粒子はかなりバラけています。 デジタル顕微鏡の合成機能を利用しています。紫蘇輝石がめだつようです。福島県で採取された試料に類似した粒子が見られます。 更新日:100531 ↑このページの最初へ
アイスランドから火山灰は飛来したか?遠藤邦彦・千葉達朗 4月25日に福島県で真っ黒い微粒子が採取されました。降ったのは22日(小雨・雪)と思われます。採取された千葉茂樹さんによる経緯は以下の通りです。 『この黒い火山灰(?)の筋を4月25日08:50に綿棒で採取しました。 車のドア部は、黒い極細粒粒子でしたが、窓の下部の段になっているところには、鉱物もありました。前後の経緯からこれらが降ったのは,22日と思われます。』 以上の2種類の試料、「ドアについた黒い極細粒物」と「細粒鉱物が付いたもの」について、プロジェクトチーム(千葉達朗・長井雅史・中山聡子・中尾有利子)が電子顕微鏡とデジタル顕微鏡で観察しました。雨滴に取り込まれて降下したものと思われます。 いずれも非常に細粒で、普段大陸から飛んでくる黄砂試料よりはるかに細かく、全体には黒色を呈するのが特徴です。重要な特徴の一つに、極めて細粒な粒子がくっつきあって塊(凝集粒子)を作っていることが挙げられます。 これらがアイスランドの火山噴火に由来するものかどうかはさらに検討が必要ですが、アイスランドでは大量の火山豆石がつもっているといわれています。アイスランドで採取された火山灰との比較が必要です。 更新日:100529 ↑このページの最初へ
アイスランドの火山噴火の火山灰?千葉茂樹氏から関連情報を戴きました. 『4月末,岩手サファリパークの近くでアイスランド火山噴火の火山灰と思われる雲状のものを撮影しました.』 更新日:100529 ↑このページの最初へ
吾妻山の噴煙写真千葉茂樹氏から吾妻火山の情報を戴きました. 『仙台管区気象台によると吾妻火山でも4月上旬から噴気量が増大しています.5月5日には、噴気孔の近くの浄土平からは噴気が赤く見えたとのことですが,福島市からは春霞で吾妻山は見えませんでした。しかし夕方になって、里山(高松山、吾妻山からの距離約25km)から写真1のように噴気が見えました。(噴気の出ているのは、吾妻火山の一切経山です)』 更新日:100529 ↑このページの最初へ
「円筒笠」「横筋笠」「かなとこ笠」の成因について山川修治 東京都渋谷区在住の河原義一氏から素晴らしい笠雲の写真(写真1,2,3,5)を送っていただきました。 「昨年12月30日午後、富士宮市上井出の富士桜自然墓地公園付近で富士山を撮影していたところ、珍しい笠雲に遭遇し、過ぎから上部の形が変化してきました。・・・で富士山の雲について参考に ・・・」という文面が添えられていました。そこで、「円筒笠」「横筋笠」「かなとこ笠」の成因について気象状況を調べてみましたので報告します。 富士山頂付近で写真1の「円筒笠」が観察されたのは、発達中の日本海低気圧から伸びる寒冷前線(図1、図2)が接近し、南西方からの暖湿気流が次第に強まってきているときでした。下層の湿潤層が厚く、高度2〜4kmに広がっていたことを示しています。河口湖カメラの画像で見ると「上部はその後東側、山中湖方面に延びてはちぎれることを繰り返しています」(河原氏)とのことですが、南西風に乗ってきた湿潤空気が富士山山頂付近で上昇し笠雲をつくり、それが風下の山中湖方面での下降気流で消えていく様子が捉えられたわけです。 写真2は典型的な「横筋(よこすじ)笠」をとらえています。おそらく、浜松の気温の鉛直プロファイル(図3)にみられるような3段の安定気層が、徐々に明確化して、「円筒笠」から「横筋笠」へ移行したと考えられます。さらに、寒冷前線(図1-a、図2-a)の東に存在する反時計回りの渦(図1-b、図2-b)が、午後に富士山方面へ接近し、笠雲の構造を変化させたのでしょう。富士山山頂部では斜面に沿う上昇気流で笠雲が形成されていたうえ、その反時計回りの渦が山頂を中心に水平方向のゆっくりとした回転運動を引き起こし、笠雲を安定化させた可能性があります。つまり、この笠雲は「渦笠」の性格もあわせもっていたと推測されます。回転が速ければ、笠雲のつばが広がり、「二蓋(にだん)笠」になると考えられますが、今回はさほど回転運動は強くなかったようです。 富士山山頂付近の斜面(写真1, 2, 3, 4)に注目してみると、白い雲がはりついています。これは「かいまき笠」とよばれる笠雲です。南西風に含まれていた水蒸気が山頂付近の積雪によって冷やされ、霧つまり笠雲を形成しているのです。その「かいまき雲」の形成には、高度約1.9kmの安定層(図3)もかかわっていたとみられます。夕方になって、富士山斜面の気温が下がって下降気流に代わり、「横筋笠」の下部が消える一方、「かいまき笠」は真綿のように厚みを増しました。それとともに、笠雲の形状が積乱雲にみられるような「かなとこ(アンビル)状」に変貌しました(写真5,6)が、高積雲の一種です。夏の積乱雲の「かなとこ雲」は上昇気流がなせる術であるのに対して、冬の「かなとこ笠」は下層の下降気流がなせる術ということになります。 今回、貴重な画像のご提供によって、複数の種類の笠雲が同時に出現すること、また、同じ笠雲でも見る方角や観察するさいの視点を変えれば別のタイプになるということも確認できました。今後も何か珍しい画像が撮影されましたら、是非ご一報をお願いいたします。 更新日:100506 ↑このページの最初へ
アイスランド火山大噴火による成層圏エアロゾルの行方は?第2弾アイスランド火山の火山灰はかなり収まり、飛行場の閉鎖はほぼ解消されたようです。しかし今後の推移には目が離せません。 この噴火による火山灰やエアロゾルは日本の上空を通過している可能性大です。しかし、非常に細粒であるため、これをとらえるのは黄砂よりかなり難しいと思われます。 21日夜にぽつぽつ降ってきた降り始めの雨滴に極めてこまかそうな泥が混じっていたように思われました。フロントガラスについた雨滴を拭き取ってみると、黄砂よりはずっと細かな粒子だけが含まれていました。この日の昼ごろ、環境GISのライダー観測で、高度5kmあたりのみで東京、仙台、富山を含む数地点で黄砂が観測されましたが、夜にはきれいになくなっていましたので、もしやと思い注意していました。これが細かい火山灰であるという証拠は未だつかめていません。 丁度同じ日の夕方に、福島県で撮影された写真が千葉茂樹さんから届きました。ピナツボ噴火の時や浅間山噴火の時にも鮮やかな夕焼けが見られました。 24日夕方の画像が千葉茂樹さんから送られてきました。 『4月24日、日没前後、吾妻火山の噴気を撮影する目的で、阿武隈川の堤防に行きました。太陽方向を見ましたところ、地平線に平行に「薄い筋状のもの」が見えました。私の経験では、浅間火山の噴火の後にも何度か見た様な気がします(千葉茂樹)。』 変更日:100506,更新日:100419 ↑このページの最初へ
アイスランド火山大噴火による成層圏エアロゾルの行方は?(速報)アイスランド南部にあるEyjafjallajökull(エイヤフィヤットラヨークル)氷河でおおわれた火山の噴火は、3月20日に山麓部で始まり、割れ目噴火?溶岩流の流下と進行していましたが、4月14日に山頂火口の噴火に移り、氷河を抱く火山の噴火そのものの推移が心配されます。 加えて、マスコミ各社が報じるように、成層圏に注入された火山灰(エアロゾル)がヨーロッパ地域を広く漂い、飛行機便への影響は欧州の26カ国に拡大、欠航便数は16000便にも達しています(17日)。各国政府要人の移動にも影響が出、政治、経済、社会全般に大きな影響が出ています。18日には試験飛行が行われていますが、これが長引くとその影響は甚大なものになる可能性があります。以下、山川教授に解説頂きました。(遠藤邦彦) 3月より火山活動を続けていたアイスランド南部のEyafjalla 氷河で、4月14日に大規模な噴火があり、噴煙高度は18kmに達したとの情報もあります(ロイター伝) 。この火山はおよそ北緯63°に位置します。高緯度における圏界面【注1】は約8kmで、噴火による火山性エアロゾル【注2】は成層圏に入った可能性が高いとみられます。成層圏は上空ほど高温となっているので、大気層が安定しており、いったん注入された火山性エアロゾルは数年間に渡って浮遊します。噴出した物質の量にもよりますが、いったん成層圏に入ったエアロゾルは、地球の気候に数年にわたって影響を及ぼすことがあります。 成層圏最下部、高度約11kmの代表的な気圧200hPa面高度図を用いて、ジェット気流の風速とエアロゾルの動きを推定してみました(図1)。まず、14?15日(図1)に成層圏へ入ったエアロゾルは強い西風(推定風速25m/s)に流され、1日で2160kmほど運ばれ、北欧上空に達したとみられます。15?16日には次第に拡散しながら、一部は北西風(推定風速20m/s)によって中央アジア方面へ運ばれたと考えられます。16?17日になると、北緯30?45°付近を吹き渡るジェット気流(推定風速50m/s)に乗って、一気に中国方面まで輸送されたことが推測されます。そして、東アジアではジェット気流が一段と強い状況(推定風速60m/s )なので、18日にも日本上空を通過していった可能性があります。 過去を振り返ってみると、1783年にアイスランド・ラキなど一連の火山大噴火、日本でも浅間山の大噴火がありました。そして、1783?1784年は世界的に天候不順に見舞われ、夏のない年となり、日本では天明の大飢饉に至りました。最近では、1991年にフィリピン・Pinatuboの大噴火があり、1992年に北半球で0.4℃低下し,1993年には日本をはじめ北半球の中緯度で冷夏となりました。高緯度噴火は低緯度噴火に比べ影響が早く現れる恐れがあります。今回の大噴火による成層圏へのエアロゾル注入量の研究を待たねばなりませんし、現状では1783年に比べれば小規模なのですが、 気候への影響が懸念されます。今後の火山活動の推移と今後の北半球の気候にどうような影響がどの程度及ぶか注視していく必要があります。(山川修治) 【注1】 圏界面:対流圏と成層圏の境界。平均高度は12kmだが、低緯度では高く、高緯度で低い。 【注2】 エアロゾル:浮遊性の固体および液体の微粒子のこと。粒子の半径は1nmから100μm程度までの広範囲が含まれる。太陽放射の一部を遮断する(パラソル効果)。また、硫黄を含むエアロゾルは、オゾン層のオゾン破壊に寄与することもある。そのほか、凝結核の増加で、雲量や降雹を増加させる可能性もある。一方、夕焼けを堪能するチャンスもありそうだ。 更新日:100419 ↑このページの最初へ
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