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浅間山2009年2月2日噴火に伴う関東地方の降灰分布と降灰時刻
(2009年2月17日,2月27日改定)

宮地直道・長井雅史(日本大学文理学部地球システム科学科)

浅間山の2009年2月2日の噴火では,未明から朝にかけて首都圏を中心とする南関東で火山灰の降下が観測されました.当学科では,メーリングリストなどで降下火山灰の堆積量測定や試料採取へのご協力をお願いしたところ,多くの皆様から報告や火山灰のご提供をいただきました.これらの試料やそのほか各種機関に寄せられた情報などをもとに降灰分布図を作成成しましたのでここに報告します.今回は降灰量が少なく火山灰の厚さが測定できなかったため,単位面積に積もった火山灰(降下テフラ)の量の等値線で表現しています(図1).なお,山体近くのデータは 2月6日(13日改定)「浅間山2009年2月2日噴火噴出物の調査報告」 のものを使用しています.ただし,図1のスケールですと山体近くのデータは重なり見にくくなるため,等重量線の最大値は64g/m2としています.これよりも大きな値は上記2月6日のページをご覧ください.


図1 浅間山2009年2月2日の降下テフラの降灰分布と等重量線図(g/m2)

「試料採取地点」は現地調査で得られた試料の単位面積あたりの重量が概ね0.001g/m2以上の地点, 「降灰あり」は同量が0.001 g/m2以下の地点,「降灰なし」は現地調査で降灰を確認できなかった地点, 「降灰情報あり」は気象庁,マスメディア,インターネット上の情報などで降灰が認められたとした地点. 背景の地図はカシミール3Dを使用.(クリックで拡大)


単位面積あたりの重量が最も大きな値を連ねた部分を分布軸とすると,分布軸は最初,浅間山から南東方向に向かいますが,下仁田町付近で南東方向に曲がり,さらに秩父盆地を出ると,降灰域はより南側に広がります. 2月9日報告「2009年2月2日浅間山噴火の噴煙はどのような風に乗ったか?」 のように 噴火当時,日本は東側のアリューシャン低気圧と西側の移動性高気圧に挟まれ,噴煙が到達した4.5kmの高度では噴火発生時に風速20〜25m/sの北西風が吹いていました.このため分布軸はこの強風により作りだされたと考えられます.また,3:00〜4:00頃,神奈川県内では風向が北ないし北北東,風速2〜6m/sの地上風が吹いていました.これはこの時間,関東地方が移動性高気圧から吹き出す時計回りの発散場の東縁部に位置していたためと考えられます.このため,南関東では浅間山から南東方向に伸びる分布軸上をたなびく高層の噴煙から落下した火山灰が地上風である北風の影響を受け,北関東に比べより南側に落下したと思われます.このようにして噴出した火山灰の総量は1.5万t(Fierstein & Nathenson,1992の方法)または1.4万t(宝田ほか,2001の方法)と見積もられます.ただし,最も火口に近い観測地点は火口から約5kmであるため,火口から5km以内の噴出量も5km以遠のデータに基づき推定してあります.実際には浅間山の斜面には火山灰や噴石が堆積しており,これらの量を加えると,この2〜3倍の物質が噴出したと思われます.


図2 花粉・粉じん観測データに基づき作成した降灰開始時刻の等時間線図

粉塵・花粉・気象ネットワーク環境省花粉観測システムのデータをもとに作成..背景の地図はカシミール3Dを使用.



図3 花粉・粉じん観測データに基づき作成した降灰終了時刻の等時間線図

粉塵・花粉・気象ネットワーク環境省花粉観測システムのデータをもとに作成..背景の地図はカシミール3Dを使用.


火山灰の降灰終了の時刻もこの風の影響により南関東では地点ごとに異なるようです.2月10日報告「浅間火山2009年2月2日噴火に伴う火山灰の降灰状況」のように   東京西部では10時から17時までの間のいずれかの時間に降灰が続いていました.このような降灰はどうやら花粉や粉じんの観測センサーに記録されていたようです.2月2日は南関東地方ではまだ本格的な花粉の拡散時期ではなかったようで,その前日までに観測された花粉(粉じん)はごくわずかでした.しかし,2日朝になると各地の観測値は一斉に増加します.特に平均的な花粉のサイズよりも大きな50μ以上の粒子はこの傾向が顕著に認められます.そこで,50μ以上の花粉・粉じんのカウント数は降灰量の多少を表わすと仮定 しました.この仮定に基づけば南関東各地の観測センサーが降灰の開始を感知した時刻は,いずれの地点ともに概ね4:00〜5:00でした(図2).一方,カウント値がほぼ一定になり降灰が終了したと推定される時刻は,分布軸の東側では6:00〜7:00ですが西側では8:00〜10:00と遅くなります(図3).このように南関東西部で降灰が遅くまで続いた理由として,2月10日のページにも書きましたように,最初に爆発的噴火が発生してそれに引き続き火山灰噴火が発生し,その噴煙が北西の高層風により南東方向に流れ,その後,北〜北北東の地上風の影響を受けて南関東西部に降灰したことが考えられます.



最後に今回の降灰調査にあたり,地球システム科学科の学生や学科卒業生をはじめ,以下に挙げる多くの皆様のご協力を得ました.深く感謝いたします(敬称略).
青谷知己,秋山瑛子,阿萬祐典,千葉達朗,千葉美希子,藤根 久,井比洋輔,石澤世順,岩田芳夫,菅野 歩,岸耕太郎,小林美幸,前田美紀,村上信道,中村正芳,奥 雄一,杉中祐輔,塩谷みき,鈴木 茂,高原篤司,竹本弘幸,田中彩央里,田中誠二,屋木わかな



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2009年2月10日更新

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