浅間火山はこれから大噴火を行うか
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Fo:藤岡軽石;Km:熊川軽石;Kn:六合軽石;My:御代田軽石;Se:千ヶ滝軽石;D:D降下軽石;C:C降下軽石;B:B降下軽石;B’:B’降下軽石;A:A降下軽石 |
プリニー式噴火では大規模な噴煙が20km以上の高さにまで立ち上がり,風に流された大規模な噴煙からは,大量の火山灰と軽石が地表に降下する.プリニー式噴火では噴出するマグマ量も大きい.噴火活動は連続し,場合によっては数日間にわたることもある.浅間火山では,こうした大規模噴火に伴って火砕流や溶岩流が流出することが多い.特に第3活動期の大規模噴火では常に降下軽石,火砕流,溶岩流の噴出が伴われる.
活動期の大規模噴火の規模は,第3活動期が最も大きい.すなわち,浅間火山は,4世紀以降その活動度を高めているとする見方も出来る.
浅間火山の第3活動期では,大規模噴火は500〜800年の間隔を置いて起こっている.最後の大規模噴火は1783年(天明3年)なので,現在まで225年程しか経過していない.第3活動期の大規模噴火はこれまで比較的規則正しく生じているので,近々に大規模噴火が起こる可能性はきわめて低いといえる.
2. 連続的噴火期と比較的静穏期
第3活動期の大規模噴火の間の時期は,「連続的噴火期」と「比較的静穏期」からなる(高橋ほか,準備中).図2は1108年(天仁元年)大規模噴火以降の浅間火山の噴火史を示したものである.1783年大規模噴火以降の時期も,中小規模噴火の連続する「連続的噴火期」と散発する「比較的静穏期」からなる.
上図の太線は大規模噴火,灰色部は連続的噴火期,白色部は比較的静穏期を示す. |
浅間火山の中小規模噴火には(1)爆発的な本格的ブルカノ式噴火,(2)規模の小さな水蒸気(マグマ水蒸気)爆発噴火,(3)ストロンボリ式噴火,(4)灰噴火,がある.
「爆発的な本格的ブルカノ式噴火」は,火道を上昇してきたマグマが火口底に顔を出し溶岩塊として冷却固化するが,さらに火道内を新たなマグマが発泡しながら上昇すると,上部に栓をされた火道最上部の火山ガス圧が高まり,やがて大爆発を起こすことで生ずるものである.爆発は大音響と空振を伴い,破壊された溶岩や上昇してきたマグマの一部が火山岩塊やパン皮状火山弾として吹き飛ばされ,それに伴って大量の火山灰を含む噴煙が上昇する.噴煙の一部は崩壊して小規模な火砕流となることもある.明治から昭和期にかけて,間に5年間の小休止期を挟んで50年以上にわたって続いた連続的活動期では,こうした本格的ブルカノ式噴火が続いた.このときの爆発音は,時として東京でも聞くことができたという.こうした連続的活動期には,火口底に絶えず溶岩塊が形成されており,溶岩塊で埋められた火口底はマグマ供給の増大と共に著しく上昇する.最後の本格的ブルカノ式噴火は1973年に起きた.
「規模の小さな水蒸気(マグマ水蒸気)爆発噴火」は,休止期が続いた後に噴火が始まる最初に起こることが多い.この噴火は火口を塞いだ岩塊を火口直下に溜まった火山ガスが吹き飛ばすもので,これによって再び火口が口を開く.「規模の小さな水蒸気(マグマ水蒸気)爆発噴火」だけで終わってしまうこともあるし,続いて他の様式の噴火が起こることもある.
「ストロンボリ式噴火」はやや大人しい噴火で,火口付近あるいは火口直下に溜まった未固化マグマが,間歇的な発泡によって破砕され,火山弾として次々と吹き飛ばされるもので,爆発力が弱いために火山弾の到達距離は小さく,火山灰の発生も限定的である.2004年の噴火では,これに近い様式の噴火が生じた.
「灰噴火」は阿蘇中岳などで見出された噴火様式で,マグマの噴出率が小さいときに,マグマが急冷されて出来たガラスが細かく破砕されガラス片となって噴出するものである.火道からの火山ガスの噴出率が大きいときや小規模な火山爆発によって既存の火山岩が破砕された場合にも灰噴火は起きるものと考えられる.2004年噴火では,この灰噴火も起こったらしい(早川ほか,2006)
3. 2009年小噴火と今後の噴火活動
2009年2月噴火はきわめて小規模なもので,最初に「規模の小さな水蒸気爆発」が起こり,次に「灰噴火」が持続して起こった.どちらの火山灰にもガラス片はきわめて少なく,マグマの直接的関与は少なかったものと思われる(安井の報告).また,鉱物片や溶岩片には丸味を帯びた磨耗したものが多い(安井の報告).膨張による地殻隆起変動と火山性地震の発生がみられたので,マグマの上昇はあったと考えられるが,マグマは火道最上部で上昇を停止し,主に火山ガスだけが分離し上昇して火口底直下に溜まり,火口を塞いでいた2004年の溶岩を吹き飛ばしたものと推定される.その後,噴出する火山ガスが加熱された高温の火山岩を繰り返し吹き飛ばす(うがいをする)ことで,主に火山灰を噴出する「灰噴火」に連続的に移行したものと思われる.この過程の中で鉱物片や溶岩片は磨耗したらしい.
浅間火山は現在,第3活動期のうちの40年以上続く「比較的静穏期」に置かれている.今後の噴火活動として最もあり得そうなのは,数年以上の間に1回程度小規模な噴火を散発する,比較的静穏な活動である.Murase et al.(2007)によれば,かつての連続的活動期には,地下8kmほどの場所にある深部マグマ溜りに供給されるマグマの供給率が著しく増大していたことが地殻変動のデータからわかるという.今後「連続的活動期」に移行するかどうかは,地殻変動の様子を注意深くモニターすることで予測できる可能性がある.
4. 噴出物の化学組成から何がわかるか
噴火が起こると噴出物が放出される.噴出物の大部分はマグマが冷えて固まった岩石(ガラスを含む)である.この岩石は砕かれ方の違いで様々な大きさ(粒度)のものに分かれる.細かいものが火山灰である.発泡したものは軽石とかスコリアとかよばれる.マグマの固化した岩石片は基本的に結晶の集合体であり,結晶は一定の大きさを持っているので,固化する前の液体マグマの組成を知ろうとすると,ある程度の大きさの試料がないと,マグマ組成を代表できない.一般には,数cm以上の大きさの岩石片があればよい.噴出した岩石片は(1)本質(そのとき噴火したマグマ(液)が固化したもの),(2)類質(以前の噴火で出来た岩石,あるいはその火山体を作る岩石),(3)異質(その火山体以外の岩石)に分けられる.本質かどうか見分けるのは簡単ではないが,着地したときに草木を焼くなど高温の証拠があり,かつ着地後に内部の気泡が膨張した証拠(遅延発泡という)のある火山弾(あるいは軽石)があれば,まず本質であると判断してよいだろう.しかし,小さい破片だとこうした条件は満足できないので判断が難しい.最近では岩石片を粉末にした後融解してガラス化し,これにX線を照射して分析する蛍光X線分析が一般的である(全岩分析という).火山によっては長期にわたって噴出物の全岩化学組成がほとんど変化しないものもあるが,浅間前掛火山では,大規模噴火のたびに,全岩MgO量(全岩分析では慣習的に組成を酸化物の形で表す)が変化しており,比較的わかりやすい火山といえる.図3に浅間前掛火山の全岩化学組成を示す.昭和の活動期の噴出物のMgO量は天明噴火噴出物よりもやや低い値を持つ.2004年噴火の噴出物(確実な火山弾)もこれと似た値を示すが,若干高めである.2009年2月噴火の噴出物も,ある程度の大きさの岩石片が採取できれば分析できる.今回は噴火の規模が小さかったので,本質物質を採取することは困難であろう.吹き飛ばされたものが2004年溶岩であれば,図3からそうであるかどうかの判断はつきそうである.
2004年噴出物(火山弾);20C:昭和(20世紀)噴火噴出物;AD1783:1783年天明大規模噴火噴出物;A’:16世紀中規模噴火噴出物;AD1128:1128年大治大規模噴火噴出物;AD1108:1108年天仁大規模噴火噴出物;4C:4世紀中頃大規模噴火噴出物;D:D降下軽石噴火噴出物;Se:千ヶ滝降下軽石噴火噴出物;My:御代田降下軽石噴火噴出物;Kn:六合降下軽石噴火噴出物;Fo:藤岡降下軽石噴火噴出物 |
引用文献
Murase et al. (2007) Time-dependant model for volume changes in pressure sources at Asama volcano, central Japan due to vertical deformations detevted by precise leveling during 1902-2005. J.Volcanol.Geotherm.Res.,164, 54-75
高橋正樹ほか(2007)浅間前掛火山噴出物の全岩主化学組成.日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要,42,55-70.
高橋正樹ほか(火山,投稿準備中)浅間前掛火山の地質と噴火史
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