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浅間山2009年2月2日噴火の火山灰の粒度特性(5月22日)

宮地直道(日本大学文理学部地球システム科学科)

浅間山の2月2日噴火で噴出した火山灰がどのようにして生産され拡散したかを検討するために,単位面積あたりの等重量線図(浅間山2009年2月2日噴火に伴う関東地方の降灰分布と降灰時刻)作成のため定面積より採取した約40試料のうち分析が可能な36試料について粒度分析を行いました.粒度分析は直径が0.062mmよりも粗粒な粒子については乾式篩で,それよりも細粒なものについてはレーザー回折粒度分析装置でそれぞれ行いました.


図1 2月2日火山灰の中央粒径値の等値線図


その結果,各試料の平均的な粒径を示す中央粒径値(Mdφ)の等値線は,単位面積あたりの等重量線とほぼ類似した形を示し,多く堆積している地域の火山灰はその周辺よりも粗粒であることが分かりました.一方,中央粒径の等値線の最大値を連ねた軸部付近の各地点の粒度組成をみると,火口からの距離が離れるに従い,細粒になっています(図1).すなわち,噴煙は上空の北西風に運ばれて浅間山の南西方向に広がり,その過程で粗粒な火山灰から順に地表に落下したと考えられます.

図2 浅間山からの距離および方位の差異による粒度組成の変化

この軸沿いの粒径分布を詳しくみると,山体近くの軽井沢付近では+2.0φ(直径0.25mm)の粗砂サイズ,秩父〜神奈川付近では+3.5φ(直径0.088mm)の中粒砂サイズの粒子が多く,広い範囲に砂サイズの火山灰が堆積したことが分かります.ただし,CD地点のヒストグラムを見ると+2.0〜+4.0φ(直径0.25〜0.062mm)の砂サイズの部分のピークに加え,+4.0〜6.0φ(直径0.062〜0.016mm)のシルトサイズの部分にもゆるやかなピークが認められます(図2).この傾向はE地点でもわずかに認められます.ある地点には同じ終端速度を持った粒子が落下するため,各地点の降下火山灰の粒子の大きさはほぼ同じはずです.これらの地域では降灰直後の調査で凝集粒子が確認されている(浅間火山2009年2月2日噴火に伴う火山灰の降灰状況)ことを考えると,シルトサイズの粒子は凝集粒子として砂サイズの粒径を作ったり,砂粒子に付着したりして落下したと思われます.また山体の近くでも軸部から東方に離れたB地点では軸部のA地点よりも細粒です.アメダスのデータによれば噴火当時,軽井沢付近には約3m/sの南西の地上風が吹いていました.このことから軸部の細粒な粒子は地上風により東方に拡散したことが考えられます.

図3 粒径別等重量線図(8g/m2の例)

 一方,粒径別の単位面積あたりの等重量線図を作成してみると,+3.0〜+4.0φ(直径0.125〜0.062mm)の粒子が広範囲に多量に拡散し,これよりも粗粒なものも細粒なものもその量は少ないことがわかりました.図3は粒径別に描いた単位面積あたりの等重量線図のうち8 g/m2の等値線図の例です.では,なぜ火山灰中にはシルトサイズや粘土サイズのものが乏しいのでしょうか?その理由の一つとして今回の噴出物中には脆く細かくなりやすい風化した岩石や粘土鉱物が少なかったことが挙げられます(浅間山2009年2月2日噴火の火山灰中に含まれていた鉱物).また,今回の噴火は2004年噴火のときよりも爆発力が小さく粉砕が進みにくかった可能性も指摘されています(吉本充宏氏私信).一方,山頂火口底内の微地形変化より,2004年の噴火で噴出した溶岩が今回の噴火の火山灰のもととなった可能性が指摘されています(東京大学地震研究所,2009).以上のことから浅間山の2月2日噴火では主として2004年に噴出した新鮮な溶岩が破砕され,その多くは砂サイズの火山灰として高度約4500mの北西風(2009年2月2日浅間山噴火の噴煙はどのような風に乗ったか?)により南関東まで拡散したと思われます.




謝辞

  神奈川県温泉地学研究所の萬年一剛氏にはデータ解析にあたり数々のご指導を頂きました.北海道大学理学部の吉本充宏氏には貴重なご意見を賜りました.また地球システム科学科学生の田中彩央里さん,岸耕太郎君,村上信道君には粒度分析を,杉中佑輔君,前田美紀さんには粒度分析および作図を手伝っていただきました.記して御礼申し上げます.



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