地盤災害・斜面災害の頁

2011年

遠藤邦彦

3月2日の記事「2月18日富士山南東斜面で雪崩・スラッシュ雪崩発生」に新たに上空からの写真などを加え改訂しました。

2月18日富士山南東斜面で雪崩・スラッシュ雪崩発生(改訂版)

小森次郎(名古屋大学環境科学研究科.ブータン国経済省地質鉱山局)

富士山南東斜面の富士山スカイラインの赤塚観測点(EL1280m)では,2月17日午後9時から18日午前8時の間に150mm,特に午前4時〜6時の2時間で68mmの強い雨があり(図1),山頂の気温は午前5時50分〜6時に-3.7度を記録した(図2).富士山南東斜面での過去の記録から復元したスラッシュ雪崩の発生条件は,山頂気温が-5度以上,赤塚での3時間の連続雨量が約50mm以上であることから,今回の荒天でもスラッシュ雪崩の発生が十分に考えられた.

図1 富士山南東斜面時間雨量

図2 富士山山頂10分毎気温

これを受け,筆者は2月20日に現地調査を実施し,その結果以下のことが明らかになった.

  • ・富士山の東から南面においては,東〜南東斜面では獅子岩から宝永山東斜面で10か所以上,南側斜面で3ないし4か所で小規模な雪代が発生していた.これは雪崩,スコリア混じりのスラッシュ雪崩,および泥流の一連の現象である.
  • ・最初に点発生のブロック雪崩が発生し,引き続いて雪・氷・スコリアからなるスラッシュ雪崩と水・スコリアからなる泥流が発生した.
  • ・ブロック雪崩は標高2000〜1900mを発生源としており,特にその南部については2007年や2009年のイベントよりも500m程低い位置からの発生であった.踏査で確認した発生源については,これまでのイベントで見られたような谷地形の底からではなく,横断面がほぼ平坦な斜面からの発生であった.
  • ・南東斜面での土砂の移動量は数万m3程度と考えられる.この数字は 2007年の2月から3月の三度の雪代イベントよりも一桁小さい.しかし,泥流の一部は太郎坊駐車場の南東側400m下 (標高1350m)や砂沢と富士スカイラインが交差する橋(標高1605m)まで達しており,これらは2007年のイベントよりも低い位置である.

写真1

滝が原演習場から2月21日撮影.赤矢印は雪崩・スラッシュ雪崩の発生源.

写真2

水ヶ塚公園駐車場から2月20日撮影.宝永火口西側斜面でも小規模な雪崩が発生している.

写真3

西臼塚駐車場から2月20日撮影.赤矢印は雪崩の発生源.

写真4

発生から5日後の富士山南東斜面の斜め航空写真.防災科学技術研究所,鵜川元雄火山防災研究部長撮影.今回のイベントの発生状況を明瞭に映し出している.

(1)二合八勺小屋,(2)踏査を行った雪崩の発生源(写真5,写真9),(3)写真6撮影地点,(4)踏査域の北隣の雪崩発生域,(5)写真7撮影地点,(6)写真10撮影地点,(7)二合八勺小屋下から発生したスコリア混じりのスラッシュ雪崩の終端(写真12),(8)太郎坊駐車場,(9)(10)スコリア混じりのスラッシュ雪崩の終端(写真13,14),(11)富士山スカイラインの砂沢横断地点(写真15,16).破線:2007年の2月から3月の3回のイベントの雪崩・スラッシュ雪崩のおおよその発生位置.

以下に雪崩,スラッシュ雪崩,泥流の現地での特徴を示す.

◆雪崩

二合八勺小屋(EL.2100 m)の500m東には,幅3m,深さ30pで積雪が下方へ抜け落ちた状況が確認された(写真5.位置.N 35°20.547’,138°46.350’,標高1909m).この部分から下には,雪崩のデブリが広がっているので点発生のブロック雪崩が発生したことが考えられる.雪崩のデブリはスコリアを含まず,氷の塊を含まず靴で蹴り崩れるほどにもろく(写真6),また積雪時の構造を残していたので,大量の水を混在した「スラッシュ雪崩」ではなく単に「雪崩」と判断した.ここから1.3km下流(35°20.436’, 138°47.237’,標高1581m)まで,断続的に雪崩のデブリの堆積が確認され,その流路は一部で幅10m程度,深さ1m前後のチャネル状となる(写真7).発生源より2.3km下流では,流路に落ちかけたブロック状の雪を確認した(写真8).こういった側方からの雪塊のさらなる供給が,緩斜面を長距離で雪崩が流れえた理由の一つと考えられる.なお,この範囲では,発生源から扇状に雪崩域が伝播・拡大する様子は見られず,2007年の3回のイベントとは違がっていた.ただし,これよりさらに北隣の斜面では扇状の雪崩域が発生していることが翌日の演習場からの遠望で確認された(写真4の(4)).

図5 雪崩発生源

図6

図7

図8

写真9

発生源に残された積雪層の断面には,最下底に厚さ約5pの氷板が確認された(写真9).雪崩はこの面をすべり面として発生したと考えられる.2007年3月5日のスラッシュ雪崩の発生域では,同様の氷板が雪崩発生後の地表面として広く残されておりその上を歩くのに苦労したが,今回の発生域には氷板の露出は無く,その下の凍結したスコリアが露出していた.いったん露出した氷板が雪崩発生後の降雨により融け消えたと考えられる.

◆スコリア混じりのスラッシュ雪崩

雪崩の流下域は,外側に雪崩のデブリが残り,その内側は底が平坦なチャネル状を呈していた(写真7).チャネルの側壁は下から,スコリアをほとんど含まない積雪層,その上の厚さ50cm前後のスコリア混じりのスラッシュ雪崩堆積物(氷とスコリアの混合物),最上位の厚さ数cmのスコリア層の順となる(写真10).最下位の積雪層は横方向へ連続し層構造を呈するので,イベント発生前から存在した現地性の吹き溜まりの雪と判断される.スラッシュ雪崩堆積物を構成する氷とスコリアの比には変化があり,全体には下流側ほどスコリアの混在比が高くなる.一部にスコリアを含まない氷塊が見られたが,それには現地性の積雪のような層構造が無く,かつ固く締まった氷の乱堆積が主体であることから,スラッシュ雪崩がスコリアを取り込むことで堆積したと考えられる.最上位のスコリア層は下位を面的に被覆しその境界は漸移することから,スコリア混じりのスラッシュ雪崩堆積物のうち,マトリックスだった雪や氷の部分が融解しスコリアだけが残ったものと考えられる.

◆泥流

チャネルの底にはスラッシュ雪崩堆積物とは別に,かまぼこ状の堆積断面をもった細粒分を欠いた淘汰の良いスコリアが存在する(写真11写真中央やや右).この堆積物は表面を歩くと足がズボズボと容易に埋まる特徴がある.2007年12月29日に発生した小規模なスラッシュ雪崩イベントの発生時の観察に基づくと,これは雪や氷をほとんど含まずに流れた泥流の堆積物と考えられる.

◆一連の現象の発生順序

2007年12月29日には,スラッシュ雪崩堆積物と泥流は同時に発生しており,これらの中間的な流れも見られた.今回,これらの堆積物は雪崩のデブリの上に載っていて(写真6の右側),下流域ではチャネルの底に泥流が乱されずに残っていた.以上の特徴から考えると,全体の現象は最初に雪崩が発生し,その後にスラッシュ雪崩と泥流が同時または前者から後者へ漸移し発生したと考えられる.

◆土砂移動量と流下距離

踏査を行った二合八勺小屋から下る流路では,雪崩から泥流まで含めた物質の移動量は数千立米程度(流走距離2q,幅10m前後,深さ50cm弱として),雪・氷を除いたスコリアだけの移動量は東から南斜面全体で数万立米程度と考えられる.この値は2007年の2月14日,3月5日,および3月25日の各イベントと比べると一桁小さい.雪崩の発生源の標高が低かったことと,一か所を除いて発生の範囲が扇状に広がらなかったためである.

一方,調査を行った範囲において,スラッシュ雪崩と泥流は太郎坊駐車場の北700m(標高1410m.写真12),同北100m(標高1410m),および同南東500mの森林(標高1355m)まで達していた.駐車場の南に達した流れは森林内に達していたが,倒木の被害は見当たらなかった(写真13,14).一方,二ツ塚の南の砂沢では,富士スカイラインの橋の下を泥流が通過していた(写真15,16). これらの流走距離は物質の移動量が少なかったにもかかわらず2007年の各イベントよりも長い.今回の場合,山麓では標高1300m付近まで全面的に積雪があり(約1週間前の降雪による). これは2007年の雪代発生時よりも低い.低い標高まで積雪が存在したことで,スラッシュ雪崩と泥流がより下流まで流れたと考えられる.

図11

図12

図13

図14

図15

砂沢を渡る富士山スカイラインから上流を撮影

図16

砂沢を渡る富士山スカイラインから上流を撮影

更新日:110307

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2月18日の富士山東麓スラッシュ雪崩発生時刻について

遠藤邦彦

前2報により、18日の午前5‐6時頃をピークに極めて強い雨があったこと、東麓の太郎坊周辺でスラッシュ雪崩が発生したことが分かりますが、丁度その頃、富士山の周囲に設置されている地震計の記録に振動が認められることについて、防災科学技術研究所の鵜川元雄氏より情報を頂きました。

2月18日の地震計の記録から

鵜川元雄(防災科学技術研究所)

図1 2011年2月18日4時〜7時の地震記録

1本のトレースが1分間の地震記録で、1つの枠が1時間分を示している。

(気象庁による富士太郎坊観測点の地震記録から(独)防災科学技術研究所が作成)

気象庁が昨年、富士山太郎坊に設置した富士太郎坊観測点の2月18日の地震記録をみると周波数1Hzくらいの振動が午前中、連続的に発生しています。この振動は低気圧の通過に伴う波浪や風などで引き起こされた振動と考えられます。この連続振動に重なって、周波数1〜10Hzくらいの振動を含む連続的な振動が深夜から未明にかけて発生しています(図参照)。特に午前6時前後にこのやや高周波の連続的な振動の振幅が大きくなります(図の赤枠の時間帯)。

このような振動は、これまでの富士山のスラッシュ雪崩の際も観測されたこと、今回は地表調査でスラッシュ雪崩の発生が確認された太郎坊に設置された観測点で明瞭ですが、他の観測点でははっきりと認識できないことから、太郎坊で発生したスラッシュ雪崩により発生した振動だと考えられます。この振動の大きさからスラッシュ雪崩のピークの時間帯は午前5時半頃から午前6時半頃と推定されます。また同様の周期の小さな振動は午前5時半以前の時間帯にも見られるので、数時間にわたり断続的に小規模のスラッシュ雪崩は発生していた可能性もあります。

なお今回のスラッシュ雪崩では、2004年12月5日のスラッシュ雪崩のような大きな振動は見られません。今回のような地震波を効果的に出さない場合は、ズルズル滑り、大きな地震波を出す場合は、斜面を削剥しながら滑っているのかもしれません。このように、地震計の記録はスラッシュ雪崩の発生や流れ方を把握する上で重要な情報を提供しているように思われます。

更新日:110304

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2月18日スラッシュ雪崩時の総観気象場について

山川修治

図1 低気圧の中心付近に出現した積乱雲を伴うレーダーエコー

(2011年2月18日05時;国土交通省「川の防災情報」による)

スラッシュ雪崩が発生した時刻に比較的近い2011年2月18日06時の地上天気図(図1)をみると,中心示度998hPaの発達した低気圧がちょうど富士山付近を通過しようとしています。御殿場の風向変化から,低気圧の中心は富士山のすぐ北側を通過したと考えられます。その中心に向かう暖気流入によって,標高およそ1500m(850hPa)で気温は約7℃,およそ3000m(700hPa)で約-2℃に上昇したものと推定されます(18日09時の高層天気図に基づく)。つまり,概略2700m以下の山腹では0℃以上と,この時期としては異例の高温状態になったとみられます。

図2 富士山付近を通過した発達中の低気圧

(2011年2月18日06時;気象庁による)

気温以上に重大な影響を及ぼしたのは降水量です。低気圧の中心付近とその周辺部で乱層雲が活発化していたことが,05時のレーダーエコー図(図2)からわかります。御殿場では109mm/13hrs(17日20時〜18日09時)の豪雨が観測されました。降水強度のピーク,31.5mm/h(〜05時)が観測された頃の雲の状況を図2は示しています。とくに東海沖から線状の積乱雲を含む発達した雲が富士山方面へ進入していたことが判読できます。

その豪雨と昇温の両方の影響に,20〜25m/sの南西からの強風インパクトも加わって,スラッシュ雪崩が発生したものと考えられます。今後,3月から5月にかけて,同様の低気圧がしばしば通過することが予測され,警戒を続ける必要があります。

更新日:110303

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遠藤邦彦

2月17日の夜半から18日午前に掛けて強い雨があり,富士山でスラッシュ雪崩発生の恐れが心配されましたが、たまたま帰国中の小森さんが現地に赴き、スラッシュ雪崩発生を確認しました。

以下にその報告を掲載します。

またこの降雨時の気象状況についての解説(山川修治)をその後に掲載します。

2月18日富士山南東斜面で雪崩・スラッシュ雪崩発生

小森次郎

富士山南東斜面の富士山スカイラインの赤塚観測点(EL1280m)では,2月17日午後9時から18日午前8時の間に150mm,特に午前4時〜6時の2時間で68mmの強い雨があり,山頂の気温は午前5時50分〜6時に-3.7度を記録した.富士山南東斜面での過去の記録から復元したスラッシュ雪崩の発生条件は,山頂気温が-5度以上,赤塚での3時間の連続雨量が約50mm以上であることから,今回の荒天でもスラッシュ雪崩の発生が十分に考えられた.

図1 富士山南東斜面時間雨量

図2 富士山山頂10分毎気温

これを受け,筆者は2月20日に現地調査を実施し,その結果以下のことが明らかになった.

  • ・雪崩,スコリア混じりのスラッシュ雪崩,泥流の発生があった.
  • ・最初に点発生のブロック雪崩が発生し,引き続いて雪・氷・スコリアからなるスラッシュ雪崩,および水とスコリアからなる泥流が発生した.
  • ・ブロック雪崩は標高2000〜1900mを発生源としており,2006年,2007年,2009年のイベントよりも500m程低い位置からの発生であった.
  • ・南東斜面での土砂の移動量は数万m3程度と考えられ,2006年2月14日,3月14日,3月25日のスラッシュ雪崩イベントよりも一桁小さい.しかし,泥流の一部は太郎坊駐車場の南東側400m下 (標高1350m.IMGP6103,IMGP6095)や富士スカイラインと交差する橋(標高1605m.写真IMGP5911,IMGP5913)まで達していた.

写真1

滝が原演習場から2月21日撮影.赤矢印は雪崩(一部はスラッシュ雪崩)の発生源.

写真2

水ヶ塚公園駐車場から2月20日撮影.宝永火口西側斜面で雪崩が発生している.

写真3

西臼塚駐車場から2月20日撮影.赤矢印は雪崩の発生源.

以下に雪崩,スラッシュ雪崩,泥流の現地での特徴を示す.

◆雪崩

二合八勺小屋(EL.2100 m)の500m東には,幅3m,深さ30pで積雪が局所的に下方へ抜け落ちた状況が確認された(写真4.位置.N 35°20.547’,138°46.350’,標高1909m).この部分から下には,雪崩のデブリが広がっているので点発生のブロック雪崩が発生したことが考えられる.雪崩のデブリはスコリアを含まず靴で蹴り崩れるほどにもろい(写真5).ここから1.3km下流(35°20.436’, 138°47.237’,標高1581m)まで,断続的に雪崩のデブリの堆積が確認され,その流路は一部で幅10m程度,深さ1m前後のチャネル状となる(写真6).発生源より下流2.3kmでは,流路に落ちかけたブロック状の雪を確認した(写真7).こういった側方からの雪塊の追加が,緩斜面を長距離で雪崩が流れえた理由と考えられる.二合八勺小屋から下る流路での雪崩の崩壊量は10000m3程度と考えられる.

図4

図5

図6

図7

写真8

ただしこの範囲では,発生源から扇状に雪崩域が伝播・拡大する様子は見られず,2006年,07年イベントとの違がっていた.これの北隣の斜面では扇状の雪崩域が発生していることが,翌日の演習場からの遠望で確認できた(写真1).

発生源に残された積雪の断面には,最下底に厚さ5pの氷板が確認された(写真8).雪崩はこの面をすべり面として発生したと見られる.2007年2月14日のスラッシュ雪崩の発生域では,同様の氷板が雪が抜けた後の地表面として広く残されていたが,今回の発生域には氷板の露出は無く,その下にあった凍結スコリアであった.露出した氷板が雪崩発生後の降雨により融け消えたと考えられる.

◆スコリア混じりのスラッシュ雪崩の発生

雪崩の流下域は,外側に雪崩のデブリが残り,その内側には底が平坦なチャネルがあった(写真6).チャネルの側壁は下から,スコリアをほとんど含まない積雪,その上に厚さ50cm前後のスコリア混じりのスラッシュ雪崩堆積物(氷とスコリアの混合物),最上位に厚さ数cmのスコリアの順となる(写真9).最下位の積雪は横方向へ連続するので,イベント発生前にその位置にあった現地性の吹き溜まりの雪と判断される.スラッシュ雪崩堆積物は雪氷とスコリアの比には変化があり,全体には下流側ほどスコリアの混在比が高い.雪崩のデブリや最下位の積雪と同様にスコリアを含まない塊があるが,それは現地性の積雪のような層構造が無く,かつ固く締まった乱堆積の氷が主体であることから,スラッシュ雪崩がスコリアを取り込むこと無く運ばれてきたと考えられる.最上位のスコリア層は下位層を面的に被覆しその境界はシャープでないことから,スコリア混じりのスラッシュ雪崩堆積物のうち,マトリックスだった雪氷部分が堆積後に融解して抜けたものと考えられる.この層準は時間を追うごとに厚さを増し,逆に下位のスラッシュ雪崩堆積物は薄くなりやがて消滅する.

◆泥流

写真10

チャネルの底にはこれらとは別に,細粒分を欠いた淘汰の良い,かまぼこ状の堆積断面をもったスコリア層が存在する(写真10).これは雪氷をほとんど含まずに流れた泥流の堆積物である.この堆積物は表面を歩くと足がズボズボと容易に埋まる特徴がある.

スラッシュ雪崩と泥流は標高太郎坊駐車場の南東下500m(標高1355m)の森林まで達していた.ただし,立木を倒すような被害は見当たらなかった(写真11,12).なお,2007年12月29日のスラッシュ雪崩発生時に行った観察では,スラッシュ雪崩と泥流の違いは漸移的で,その流速は斜度16度程度で早歩き程度の早さであった.スコリア混じりのスラッシュ雪崩と泥流は雪崩のデブリを覆っていることから,雪崩が最初に発生し,その後スラッシュ雪崩と泥流が発生したことがわかる(IMGP6039r,IMGP5934r).

図11

図12

更新日:110302

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2009年

富士山大沢川源頭域でスラッシュ雪崩発生

14日5時半頃,富士山大沢川源頭域標高約2100mの国土交通省富士砂防事務所の監視カメラでスラッシュ雪崩が捉えられました(国土交通省富士砂防事務所発表).これを受けて小森氏が緊急調査を行いましたので,以下に報告いたします

更新日:090316

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富士山の3月14日のスラッシュ雪崩について
-南〜東斜面の概況-

小森次郎

図1

図2

14日の昇温と強雨と西側斜面剣が峰大沢での雪崩確認のプレス発表(富士砂防事務所)を受け,15日朝に富士山の南斜面と東斜面を急遽視察しました.以下に両斜面の概況を示します.

【南側斜面】水が塚駐車場より遠望(写真1,2)

・宝永第一火口の西隣の谷と市兵衛沢で雪崩の発生を確認.日沢でも小規模な雪崩か.いずれも表層雪崩.

・雪崩の発生点は宝永火口西隣の谷で目測(写真と地形図の比較)でEL3200m付近とEL2750m.市兵衛沢で目測EL2700m付近.日沢で目測EL2450m付近.
  気象庁の館野(つくば.富士山から東北150km)の14日9時の高層天気では700hPa(ポテンシャル高度約2900m)の気温が0.2度.湿度はほぼ100%に近かったので(山頂14日AM5時),発生時の雨雪境界もこの高度前後と考えていいのではないか.

・宝永火口西隣の沢からは森林の中まで土砂混じりの雪崩のデブリが堆積しているように見える.(この沢では07年3月25日イベントでは標高1900m付近(記憶が正しければ)までデブリを追いかけられ,8月にも堆積物中に雪塊が残っていた)
  スカイライン5合目駐車場施設の状況は不明.

図3

図4

図5

【東斜面】御殿場口登山道標高1550mから(写真3,4,5)

・太郎坊から獅子岩にかけての頻発斜面ではスラッシュ雪崩の発生はごく僅か.毎回発生している宝永山北側斜面でも発生の痕跡なし.1700m付近の浅い谷も見たが流下の痕跡も勿論なし.
  気象条件,積雪条件は2月14日と同じと考えていたため,太郎坊周辺での雪崩がこれほど小規模だったのは正直予想外であった.南斜面では逆に2月14日には雪崩の発生は無かったので,その点でも今回の事象と異なる.この違いの理由を考える必要がある.

更新日:090316

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今週末,積雪域では雪氷災害に注意
- 富士山ではスラッシュ雪崩に注意 -

小森次郎・山川修治

図1 24時間予想図 平成 21年 03月 13日 09時の予想

気象庁HPから

図2 48時間予想図 平成 21年 03月 14日 09時の予想

気象庁HPから

13日(金)日中に日本海低気圧が発達しながら(1006⇒996hPa)北東進し,その中心から伸びる顕著な寒冷前線が14日(土)06〜12時に東日本を通過する見込みです。寒冷前線の通過前には,先行する強い(1030hPa)移動性高気圧の後面の暖湿気流が東日本に入り,50mm前後の大雨も降り,気圧傾度が急で突風も吹きそうです。寒冷前線通過前後に,雪の多い山岳地帯では雪崩や融雪洪水,富士山ではスラッシュフローの恐れがあります。今後の天気の移り変わりに十分注意しましょう。

今回予想されている天候と同様の条件で,最近3年間で富士山では少なくとも7回のスラッシュ雪崩が発生しています。本年の2月14日には南東斜面の太郎坊周辺で小規模なスラッシュ雪崩が発生し,土砂混じりの雪が斜面を約2km流下しています。このスラッシュ雪崩の発生後,3月初めの降雪により現地には雪崩の材料となる積雪がすでに存在しています。

更新日:090312

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2007年

3月25日発生のスラッシュフローについて

小森次郎

1.富士山東斜面
2.写真
3.気象条件

3月25日,未明から朝にかけて,富士山の東,南,および西側斜面でスラッシュ雪崩が発生した.以下に,東側斜面の御殿場口登山道周辺で実施した現地調査から明らかになった現地の概要を述べる.

1.富士山東斜面

スラッシュ雪崩は御殿場口登山道北側〜獅子岩周辺から発生した.これは2月14日の発生域とほぼ同じだが,全体的な流動域および堆積域の幅は狭い.標高1700m付近までは氷/スコリアの混合物や凍結板および氷板を含んだ堆積物が目立つ.その堆積物の表面は水分を含み周囲と比較して際立って暗色を呈しており,日射を浴びると靄が立ち昇る.標高1700m付近よりも下流側は一部に氷/スコリアの混合物や凍結板を含んではいるものの,主として細粒分を欠いた礫サイズの乾いたスコリアが堆積する.2月14日のイベントで凍結板を破り下刻され, 3月5日にさらに浸食されたガリー状の小谷のうち,標高1550m付近よりも下流側では,これらの堆積物が数十mの幅をもって谷底を埋めている.それらは,2月14日のスラッシュの堆積物の末端よりも更に水平距離で450mほど下流の標高1320m付近にまで達していた.なお,25日にこの地域の下流側に当たる表富士周遊道路の馬返し付近で土砂流出により道路が一時通行止めとなったが,現地の状況からその土砂は太郎坊周辺から流下したものではないと判断される.

太郎坊側のスラッシュ・フロー

太郎坊側のスラッシュ・フロー

2.写真

富士山東側斜面で発生したスラッシュフローから移化した雪代の堆積物の先端部.太郎坊洞門の北1.1km,標高1335m地点で,2月14日の堆積物の到達下端からさらに450m南東側下流に位置する.発生から3日後に撮影.堆積物に埋積された幼木が点在し,そこから推定されるスコリアの層厚は50cm.ほとんどが礫サイズ以上のスコリアからなり,撮影時には内部に氷も雪も無くスカスカで,上を歩くとすねまで埋まる.このような堆積物は2月14日や3月5日よりも今回のイベントによるもののほうが多い.ピッケルの脇に写る牛糞状のスコリアの塊は雪代の流れから飛び出した(転がりだした?)板状の凍結スコリア.ピッケルの長さは60cm.

3.気象条件

西南西に寒冷前線をもった低気圧が日本海にあり,24日夜から富士山周辺では気温が上昇しまとまった雨となった.この時期には通常-10度を切る富士山山頂において,25日7時と9時の-1.1度をピークとして,24日23時から25日16時まで‐5度を越える高温を記録した.また,御殿場では,25日2時から9時の7時間は15mm/hを越える雨が降り続き,24日20時から25日13時の連続雨量は187mmに達した.雨のピークは7〜8時に時間雨量28mm/hを記録し,他の富士山周辺のアメダス観測ポイントでも,同じく7〜8時がピークとなっている.

更新日:070410

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3月25日朝の大規模スラッシュフロー・土石流発生時の気象状況について

山 川 修 治

3月25日の天気図

図1 2007年3月25日に日本列島を通過した寒冷前線

(気象庁による)

3月25日,その2日前の小森氏の警告通りスラッシュフロー(土砂を巻き込む雪崩)が発生しました。発生時(08:01)の2時間前の天気図(図1)をみると,北東進しながら発達した日本海低気圧(992hPa)からのびる寒冷前線が北陸地方の沿岸を通り,能登半島の付け根付近で波動を呈しています。その南東側は極めて湿潤な空気が南方より吹き込み,不安定度が高くなっていました。特に,相模湾から富士山方面へ吹き込む湿舌が富士山南斜面で積乱雲を発達させたとみられます。そして,降り始めの24日15時から大規模スラッシュフロー・土砂崩れ発生直前の25日08時までの積算降水量は,冨士市で130mmに達していました。

3月25日のレーダーエコー図

図2 2007年3月25日07:30の寒冷前線に沿う線状エコーと富士山付近に現れた顕著な積乱雲群

(気象庁による)

25日07:30のレーダーエコー図(図2)をみると,南西-北東走向の線状に対流性の雲が並び,東海地方東部で団塊状に広がり,とりわけ富士山付近に発達した積乱雲群が形成されています。十字型のエコー・パターンは,最下層における南西方からの強い暖気と,中下層における北西方からの強い寒気が交錯していることを示唆しています。気温も富士山頂で,25日07時に−1.1℃,08時に−1.2℃とこの時期にしては高温を維持していたことから,標高およそ3100m付近まで雨で,融雪を進めたことが推測されます。また,富士山頂の気圧も08時に極小を記録しており,寒冷前線の通過を示していますが,そのさいの前線面上での上昇気流に伴う突風も積雪崩落のきっかけとなった可能性があると考えられます。

今年はきわめて暖冬で, 2月14日,3月5日,そして3月25日に富士山でスラッシュフローが発生していますが,いずれも発達した日本海低気圧が日本列島を通過したときでした。また,4月4日には高層に強い寒気団を伴う寒冷渦の通過による雪が富士山でも降りましたが,今後も時々発達した低気圧の通過がある見込みで,さらなるスラッシュフローや土砂崩れが起こる恐れもあり,要警戒の状況が続いています。

更新日:070409

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3月25日太郎坊側のスラッシュ・フロー

小森次郎

太郎坊側のスラッシュ・フロー

太郎坊側のスラッシュ・フロー

追記:上記「3月25日発生のスラッシュフローについて」に詳細な報告があります.

更新日:070406

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3月25日に再びスラッシュフロー(雪代)発生!続報

小森次郎

桜公園からの富士山

桜公園から見た富士

明日以降の天気が悪そうなので,本日急遽現地へ行ってきました.

やはりスラッシュフローが発生していました.昨年末のものとあわせて,今シーズン4回目の発生です.宝永山側の雪が少なかったので,発生は獅子岩周辺から次郎坊小屋付近となっています.

馬返し付近で表富士周遊道路に土砂が出たらしく,現地は自衛隊滝ヶ原駐屯地の西側から通行止めとなっていました.しばらく待っていたのですが,閉鎖のままでしたので,駐屯地から東へ下ったの桜公園からの遠望の写真撮影だけとなりました.

気象データから見ると,25日の早朝に発生したと考えられます.
   御殿場で24日18時〜25日13時まで連続雨量187mm
   富士山山頂で25日7時と9時に-1.1度
   御殿場で25日0時から13度を超え,9,10時に15.5度

前々回と前回の間が19日,前回と今回が20日.発生しやすい気圧配置が今年はパターン化しているようです.

更新日:070326

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3月25日に再びスラッシュフロー(雪代)発生!

小森次郎研究員の速報による

スラッシュフローのため道路封鎖した写真

スラッシュフローのため道路封鎖

日本海北部の低気圧から南北に長く延びる寒冷前線が発達,24日夜から25日朝にかけて強い雨があり,富士山でのスラッシュフローの再発が心配されていましたが,26日朝小森次郎研究員が確認に出かけ,スラッシュフローが再び発生しているのを確認しました.今回は土砂が道路まで出ているようで,表富士周遊道滝が原駐屯地付近で通行止めになっています.

更新日:070326

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3月5日にも富士山東斜面でスラッシュフロー(雪代)発生

小森次郎

2007.3.19に起きた富士山のスラッシュフローの写真

3月5日に起きたスラッシュ・フローの堆積物

2月14日に続いて,3月5日にも同様の気圧配置となり,同じ富士山東斜面でスラッシュフロー(雪代)が発生しました.スラッシュフロー堆積物は3月5日以前の積雪を覆っています.

更新日:070319

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「春一番」の暖気移流に伴う大雨について

山川修治

2007.2.14 18jstレーダーアメダス解析雨量図

「春一番」を吹かせた日本海低気圧から伸びる寒冷前線(一点鎖線)上に発生した積乱雲を含む雨雲.このエコーの中心部(東海地方北東部)には局地低気圧が出現し,エコーの長軸の東北東方の延長線上に富士山があたっていた.

(気象庁原図に 伊藤 忠 気象予報士=同会東海支部=が加筆)

「春一番」となった2月14日,寒冷前線の通過としては多量の雨が降ったことに関して続報します。局地気象解析(伊藤忠氏)によると,18時頃,東海地方に局地低気圧(997hPa)が発生しました。それに伴う発達した雨雲(図)が東海地方に西南西-東北東走向で形成され,それがちょうど富士山付近を経て,首都圏の低圧部につながる構造を示していました。また,寒冷前線西側の寒気層の厚さが1500mほどしかなかったため,中部山岳地帯で寒気がブロックされ,その分,暖湿気団が富士山付近へ長時間にわたって強く流入しました。その状況は遅れていた寒気が富士山に到来し気温の低下した20時の直前にかけて続いたものと考えられ,振動データからスラッシュフローが頻発したと推定される時間帯18〜20時(小森次郎氏の解説参照)と一致します。

今冬はユーラシア大陸の極渦は大きく反対半球の北米側に偏り,東アジアでは極度の暖冬となりました。そして,3月5日午後から夜半にかけて,再び非常に発達した低気圧(5日21時:984hPa)が日本海北部へ到来し,それに伴う顕著な寒冷前線が18〜20時に富士山付近を通過しました。14日と同様,強い南西風とともに気温が上昇しました(富士山頂の最高気温:−2.4℃;14日は−3.4℃だったので,さらに1℃昇温)。閉塞点が津軽海峡付近と北に偏っていたこともあって,御殿場の降水量は14日の121mmには及ばない108mmでした。今回の日本海低気圧は富山県でのフェーン現象の突風によるトラック6台の横転に特徴付けられていますが,スラッシュフローや雪崩が起こってもおかしくない状況でした。今後も暖気の勢力が強く寒気を伴う気圧の谷の北偏傾向は続き,3月後半からから5月にかけてもしばしば同様の気圧配置になる見込みで,注意を要します。

更新日:070310

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2月14日のスラッシュフロー(雪代)(第3報)
−その概要と発生時刻について−

1.概要
2.発生時刻について
3.発生地点と発生時の特徴について

小森次郎

1.概要

スラッシュフローは富士山東南東斜面の幅約2kmから発生し,一部は約3.5km下流の標高1400m付近まで達していました(図1)

解析図

図1

幸い,この現象による人的被害および顕著な物的被害はいずれもありませんでした.それでも,約10箇所を発生源としたこのスラッシュフローは,舌状や筋状の複数の流れとなり,谷筋に流れ込んだ一部では発生前の地表面を深く掘り込んでいました.また,御殿場口登山道の一部は雪と氷を混在したスコリアに覆われました.堆積した土砂量は100万立方m程度と考えられます.

2.発生時刻について

2月14日に発生したと思われるスラッシュフロー(雪代)の発生時刻については,以下のような重要な資料から,次のように推定されます.

降水量のグラフ

図2

・気象観測データから
2月14日の午後から夜にかけてのふもとの御殿場市における気温,降水量,風速,および富士山頂の気温の変化を図2に示します.15時から20時にかけて共にピークを示しており,富士山頂では当日の最高気温となる-3.4℃が18時に観測されています(気象庁のデータによる.平年の2月の気温は-15〜20℃).また同じ時間帯に御殿場でも強風が吹いています.前の記事(2.春一番について)にあるように,高層気象データに基づくとおそらく2800mより低いところでは雨になっていました.スラッシュフローはこの時間帯に発生したと考えられます.富士山−御殿場間の温度差から復元した雨雪境界の1時間ごとの推移を図3の赤ラインで示します.
・地震計データから
防災科学技術研究所が富士山の南山腹に設置した地震計(FJ6観測点)により、2月14日17時から20時を中心に、17時から15日01時にかけて,1分から3分程度の継続する振動が,10回程度観測されています.この振動は雪代の崩落により引き起こされたと考えられます(防災科学技術研究所、鵜川元雄氏の私信による).
上記の気象条件と地震計の振動記録を合わせると,14日17時〜20時を中心に雪崩およびスラッシュフローが発生し,さらに15日01時にかけて断続したものと推定されます.

3.発生地点と発生時の特徴について

図3に示すように,今回のスラッシュフローは標高2000〜2500m付近を発生源としていました.そのうち標高2200〜2500m付近のものは,平滑〜凸状の横断面を示す斜面からの表層雪崩を発生源として,さらに標高2200m付近からは表層のスコリアを巻き込んだスラッシュフローになった模様です.この付近の積雪深度は20〜60cmでした.いっぽう,標高2000〜2300m付近を発生源とするものは,浅い谷地形の底から雪崩を伴なわずに,水分が多く流動性に富んだ流れとして発生しています.したがって,スラッシュフローの発生形態は大きく二つに分けられるようです.

更新日:070227

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富士山のスラッシュフローと春一番(第2報)

1.調査報告
2.春一番について
3.2月15日早朝の富士山東斜面

1.調査報告

小森次郎(日本大学文理学部 自然科学研究所 研究員)

◆調査の背景

富士山山麓のうち南東〜東南東斜面の森林限界は他の斜面と比べて1000m程低い位置に分布している.これには300年前の宝永噴火による南東〜東南東斜面を降下範囲の主軸としたスコリアの堆積と,それに引き続く表層の斜面移動,特にスラッシュフロー(スラッシュ雪崩)の発生が強く影響している(例えば安間,1993).しかし,数年に一度発生するこの現象の発生状況や発生直後の記録は決して多くなく,火山体の斜面形成プロセスを検討するには更なる記載・検討が必要である.地球システム科学科4年の本田克敏は卒業テーマ研究として太郎坊周辺のある一つの谷に注目し,精力的に調査を行ってきた(本田,2006a,b).研究も終盤となり周囲との議論も深まったことから,考えの裏づけを確認するべく,本田・小森の二名の現地調査が2月17日に予定された.その3日前の14日,関東より西では春一番が吹き,富士山周辺でも暖かくまとまった降雨があった(詳しくは次項「春一番について」を参照).このような天候の場合スラッシュフローの発生が強く予想されたことから,インターネット上に情報を求め,実際に新鮮な雪崩の跡が極めて明瞭に見て取れ,スラッシュフローの発生を予測しうる画像を見つけることができた.そこで,2月17日の調査は主にこの事象の調査を目的とし,卒業生の中山聡子,3年生の火石孟宏とともに,発生・堆積域の確認,写真撮影,堆積物の採取を行った.以下にその結果を示す.

◆まずは写真
富士山東斜面の写真

今回のスラッシュフロー発生域を堆積範囲の南部から見る.写真下半部の濃色部分が今回の堆積物.

御殿場口登山道の標高約1600mから撮影.
発生域の概要

スラッシュフローは宝永山の東を南端として,幅約2kmの範囲で発生した.発生から間もないので,堆積物表面は水分を多く含み,日射によって暖められた表面のスコリアからは蒸気が上がっている.

発生域の概要

スラッシュフロー堆積物

堆積物は表層が厚さ1,2cmの,細粒分を欠きほぼ乾いた状態のスコリアが乗り,その下は凍結したスコリア層となる.画面で白い部分は霜がついた北向き側谷斜面.スコップでようやく削れる程度に硬く凍結している.マトリックスの雪・氷の量は上流部と比べると少ない.スコップの柄よりも下が旧地表面.

御殿場口登山道の北側300m,標高約1600mで撮影.画面右が上流(西)
宝永山東斜面の拡大

御殿場口登山道の北側約300mをはしる沢(ガリー)の南側側壁.

写真下の厚さ1mの成層し横へ連続的な雪は谷底にあった吹き溜まりによる雪.その上には,14日のスラッシュフローによって移動してきた雪塊が載る.中の雪塊は破断されているが,隣同士で似ており,下の雪とも似ていることから,すぐ上流から割れながら移動してきたと考えられる.マトリックスはスコリア交じりのよく固まった雪.

スラッシュフロー堆積物

宝永山東斜面の拡大.

写真右半分(北側)では白いハケでなぞったような雪崩の痕跡が見える.
 反対側は線状の流下痕が見られる.
 この違いは積雪量や斜面勾配の影響と考えられる.

太郎坊駐車場(標高約1430m)から撮影.
スコリアを混在したスラッシュフローの堆積物

スコリアを混在したスラッシュフローの堆積物

細かいチョコチップを混ぜたアイスクリームのよう.
 写真中央右に凍結したスコリア層が偽礫上に取り込まれている.表層は凍結したスコリア層.薄いが成層する.

次郎坊小屋の下の登山道近くにて撮影.
雪崩発生域の縁辺

雪崩発生域の縁辺

右側:雪崩発生域.氷状の積雪を境として,それを含んだ上部が流下した.
 左側:雪崩を免れた積雪.調査時の積雪深は約40cm.

御殿場口登山道北側50m,標高2250m付近.
雪崩発生域

太郎坊側を見下ろす.

写真にはっきりと写る流れは標高1400m付近まで流下していた.

御殿場口登山道上,標高2250m地点.
  • 富士山東斜面の標高2500-2250mから雪崩が発生していた.幅2kmの範囲の斜面から複数発生している.
  • 雪崩は表層のスコリアと混ざり,標高2200m付近からはスラッシュフローとなり斜面を複数の流れとして面的に流れ下った.
  • 一部は麓の樹林帯と砂礫地帯の境界(標高1400m付近)に達していた.流下距離は2.5から3.5km.移動・堆積土量は約100万m3(堆積域の面積km2,平均層厚=50cmとして計算)
  • この現象による人的被害は無く,顕著な物的被害も17日の現地調査では確認されなかった.ただし,太郎坊から続く御殿場口登山道の一部は雪・氷混じりのスコリアに覆われ,何本かある谷筋は深く掘り込まれていた.
  • インターネットのライブカメラ等の情報から判断すると,少なくとも14日夕方から15日朝に発生したと考えられる.
  • 現場周辺の積雪は例年よりも少ないが,地表面は凍っている.積雪の一部が氷板となり,それらをすべり面として雪崩が発生した模様(安間荘氏((株)法地学研究所)の現地での見解による).雪崩発生範囲の17日時点の積雪は20-60cm程度.
  • 14日午後の降雨で急激に積もった雪が重たくなり,同時に暖かい南風で融雪が進んだことが直接の原因として考えられる.
  • 気象庁データによれば,南よりの風が入った14日の午後は,富士山山頂で18時に-3.4℃(通常は-15-20℃.当日の最高気温).御殿場で15時-21時に12.9-14.2℃(通常は5℃前後),同6時間で107mmの降雨.
  • 少なくとも標高2500-2300付近では雨になっていたと考えられる.
  • 堆積した氷・雪まじりの土砂は,現時点では表層部が凍結しているために安定している.ただし,14日のような気温上昇や急激な降水によって,スラッシュフローの再発や今回の堆積物からの二次的な土砂流出が考えられる.十分な警戒と同時に,堆積域のマッピングや堆積状況の確認を目的とした詳しい調査が必要である.また,登山者や観光客は,このような気象条件が予想されるときの入山には特に注意が必要である.
    現地調査メンバー:
  • 小森次郎
  • 本田克敏(日大文理・地球システム科学科4年)
  • 中山聡子(株式会社保全工学研究所)
  • 火石孟宏(日大文理・地球システム科学科3年)

現地では,富士山のスラッシュフローを長年研究している(株)法地学研究所の安間荘氏と行動をともにすることができ,ご指導をいただいた.ここに記して御礼申し上げます.

2.春一番について

山川修治

図1 2007年2月14日18時の地上天気図

気象庁による

2月14日には日本海低気圧が発達しながら通過しました(図1)。18時頃,日本海北部にあった低気圧(988hPa)から伸びる寒冷前線が富士山付近を通過しましたが,閉塞点が山形県沖に位置していた関係で,東海地方にさしかかった寒冷前線の東側で不安定度が高く,前線通過前の数時間にわたって,まとまった降水となりました(静岡市:49.5mm/day)。富士山頂の気温は寒冷前線通過直前に−3.2℃まで上昇しました。そこで,700hPa付近,0℃前後の湿潤断熱減率−0.55℃を適用すると,雨雪の境界2.5℃は,標高2800mm付近あったと推定することができます。つまり,約2800mm以上では湿り気の多い雪,約2800m以下は雨であったと推測されます。そのような状況が大規模なスラッシュフロー(雪代)の発生につながった可能性が高いと考えられます。また,前線通過直前の南西風は非常に強く,風上の御前崎で最大瞬間風速30.0m/sを記録しましたが,その強風も雪代の引き金になったかもしれません。その後,17日夕方から南岸低気圧による降水となりましたが,標高約1000m以上では降雪となっていた模様です。

3.2月15日早朝の富士山東斜面(富士山監視カメラより)

遠藤邦彦

2月15日早朝より,富士山東斜面において地表から蒸気が立ち昇っていました.富士山監視カメラにより山中湖カメラからの画像から動画に編集したものをご覧下さい.17日の調査でスラッシュフローの堆積域から蒸気が立ち昇っているのが確認されました.

このことから,2月15日早朝にはスラッシュフローは既に流下していたと思われます.

写真をクリックすると別枠で動画がご覧になれます.(mpg形式,3.6MB,約20秒)

作成日:070222 最終更新日:070224

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2006年

富士山のスラッシュフロー解析図

遠藤邦彦

写真1 スラッシュフロー

撮影:本田克敏(日本大学文理学部地球システム科学科4年)

太郎坊駐車場やや西の谷の中で認められたスラッシュフロー(写真1)の分布状況を,KuravesG2という優れもののソフトを用いて,等高線図に表現しました.コンターの間隔は,青が10cm,オレンジが50cmです.ただし,上の写真撮影後1ヶ月たってとられた2枚の地上写真から解析したもので,雪は大分解けており,ローブ地形の起伏は半分以下に減少しています.しかし,単調な等高線を示す谷斜面の間にスラッシュフローのローブ地形を明瞭に見分けることができます.

図1

図2

図3

解析ソフトは、倉敷紡績(株)のKuravesG2を使用,撮影・解析については(株)保全工学研究所(中山聡子:http://www.hozeneng.co.jp)の協力を得ました.

参考:同ページ>富士山のスラッシュフロー

更新日:061006

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富士山のスラッシュフロー

遠藤邦彦・千葉達朗

5月15日,富士山の東麓の沢の中で,スラッシュフローが発生しているのが見つかりました(標高1560m付近).沢の中の独特の"モコモコ"した舌状の黒っぽい高まりがスラッシュフローの堆積物で,その中には未だ雪の塊が残っています.また地形自体がまだ新鮮で,発生後それ程の時間は経っていないものと思われます.太郎坊駐車場のそばで,日本大学文理学部地球システム科学科4年生の本田克敏君が卒論の調査中に発見したものです.

トピックス「富士山頂の積雪,急速後退」でお知らせしたように,富士山の積雪域は5月7日頃から急速に後退しています.また,気温も上昇しており,降雨をきっかけに氷盤上の雪がスコリアと共に流下したものと思われます.

更新日:060527

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