気象災害の頁

2010年7月:日本の猛暑と世界の異常気象

山川修治

日本列島におけるこの夏の暑さは格別で,連日,最高気温35℃以上の猛暑日が連発しています。猛暑の要因を考えてみましょう。

1.日本列島の猛暑の要因は?

図1 北半球における地上および500hPaの気圧配置と熱波・寒波

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次の5つの要因が重なっていると考えられます。

1) 北太平洋高気圧が日本付近で発達:北太平洋高気圧(亜熱帯高気圧の一種)の西縁にあたる小笠原高気圧が,梅雨明けと同時に北へ移動し,ほぼ日本列島の大部分を覆っています(図1;2010年7月24日00UTC,北半球))。

2) チベット高気圧の日本への張り出しと分離発達:7月に入ってチベット高気圧(夏にチベット高原上空の対流圏上部から成層圏下部にひろがり,ユーラシア大陸南部を支配する温暖な高気圧で,この圏内では暑夏となる)が東西に張り出す構造となるとともに,中心部と西部と東部に分断されたかたちとなり,西部の高気圧が東欧・西ロシア方面に張り出し(⇒2.−2),東部の高気圧が日本付近の上空を覆いました。

3)上記1)と2)によって,暖かい高気圧のオーバーラップ現象が起きています。1)の北太平洋高気圧の上層を2)のチベット高気圧が覆い,20kmにも及ぶ非常に背の高い高気圧となっています。その中でゆっくりと下降気流が吹き降りているのですが,1kmにつき10℃の割合で昇温し,地上に猛暑をもたらします(もちろん水平からの流れなどで相当に緩和されていますが)。

4)上記2)のチベット高気圧の挙動は,成層圏低緯度にみられる東西風の準2年周期振動と関連しています。成層圏下部では西風のときと東風のときがあり,今年初夏から東風に変わり,チベット高気圧が東西に張り出したのですが,それ以前の西風時に発達していた偏西風の大蛇行の影響を受けて,チベット高気圧の分断が起こったと考えられます。

5) 日射と都市化:梅雨明け後の日射は厳しく,地表は日々暖められ,都市化の影響もあって,内陸部の中小都市で著しい高温となる傾向が現れています。

2.世界の異常気象の要因は?

世界各地から異常気象の情報が入っていますが,ここでは3地域に絞って解説します。

1) 中国長江流域の豪雨:6月から継続している現象です。7月中旬にかけて梅雨前線が長江流域に停滞しやすく,エルニーニョ現象の後で,太平洋熱帯海域では西方へ移動した暖水域で生まれた積雲群が南東風に乗って南シナ海から華南方面へ流入しました。一方, 平年以上の暖水が現れているインド洋で生まれた積雲群は西南西のモンスーンに乗って,インドシナ半島を経て,中国中・南部方面へ流入し続ける状態となっています。そのため,上記2つの流れが収束し,大変広い範囲から積雲が長江流域に運ばれ,豪雨につながりました。三峡ダムも洪水の危機に直面し大量放水を行ったとのことです。梅雨前線の北上で洪水の危険から逃れることができるかというところですが,寒冷渦が中国方面へ南下しやすい状況も続いているため,大気が不安定で積乱雲は発生しやすく,しばらく警戒を要します。

図2 南半球における地上および500hPaの気圧配置と熱波・寒波

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2) 東欧・ロシア西部の異常高温:7月26日,モスクワで37.4℃という130年の観測史上最高の気温が観測されました。当地域ヘチベット高気圧の一部が張り出すとともに,北大西洋のアゾレス高気圧(亜熱帯高気圧の一種)が6月27日から北東方へ強く張り出し,やはり高気圧のオーバーラップ現象を引き起こしています。昨年より北大西洋の低緯度に暖水が分布し続けており,それが北アフリカの熱帯収束帯を発達させ,東欧,ロシア西部の猛暑につながったとみられます(図1)。加えて,今年の北極海海氷は,東欧の北方,特にカラ海で縮小傾向が強く現れています。この海氷縮小海域は,アイス・アルベド・フィードバックの関係で,その周辺の海面や地面で太陽熱を吸収するため,高温になりやすく,さらに加速度的に氷を融解させるという連鎖反応をもたらす可能性があります。東欧およびモスクワなどロシア西部での異常高温現象は,それとの関連性も推察されます。

3) 南米の異常低温:南米を襲った大寒波は,急速にエルニーニョが弱まり,冬の初めにラニーニャ現象が一気に開始し,ペルー海流(寒流)の勢力が増大,海水温が低下したことに端を発していると考えられます。そして,その太平洋南東部の冷水域で高気圧が強まるとともに,南米付近には低気圧が発生し,南米を南東―北西に横切る寒冷前線も発達して,南極寒気団の一部が寒波となって南米へ押し寄せやすくなっているという状態です((図2;2010年7月24日00UTC,南半球))。

4) その他:上空100hPa(高度16〜17km)の気温が北半球規模で平年より高くなっていることから,4月のアイスランド火山の噴火との関連性が考えられ,これについても今後探っていく必要がありそうです。

更新日:100726

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