地震災害の頁

津波災害に備える

地球システム科学科 宮地直道

1.津波とは
2.津波の発生のしくみ
3.日本では過去にどのような津波が発生したのか?
4.津波の痕跡を調べる
5.津波災害を減らすには

1.津波とは

2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震に伴うインド洋大津波は死者・行方不明者30万人以上という近年まれにみる大きな津波災害を引き起こしました.この地震はインド・オーストラリアプレートが東側のユーラシアプレートの下に沈み込む際に発生したもので,インドネシアのスマトラ島沖の長さ1300km以上の断層が動いて,マグニチュード9.0の大地震を引き起こしました.

では津波はどうしてこのように大きな被害をもたらすのでしょうか?普通,風により生じる波浪は波長が数mで周期は長くても数10秒程度と短いので,波は陸に打ち寄せてもすぐ衰えてしまいます.これに対し津波は波長が数km以上,周期は数10分と長いため,津波は陸の奥まで侵入しその水位はなかなか低くなりません.津波のエネルギーはとても大きく,今回の津波が押し寄せる映像をみると,人のひざの高さていどの波でも人間は立っていることができませんでした.また,市街地に押し寄せた津波は通過する途中にあった,家屋,車,樹木などすべてのものを破壊し,これらの瓦礫の山が津波とともに人間を襲い被害を大きくしたのです.

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2.津波の発生のしくみ

多くの津波は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むプレート境界部の海底(図1-1)で地震が起きると発生します.地震により海底が隆起したり沈降したりするのに伴いその上の海面の高度が変化し(図1-2),地震の発生源を中心に波が四方に広がります.これが津波です.津波は水深が深いと波が伝わる速度が大きいのですが,水深が浅くなると減速します.しかし,速度が遅くなったぶん海面は高まり,巨大な波の壁となって陸を駆け登ります(図1-3).津波の動きは陸に近い海底の地形に大きく左右され,岬や陸上のV字型の谷では波が集中して津波の高さが高くなります.河川は津波が侵入しやすいので,海岸から離れていても海に近い河川沿いでは津波による被害に注意する必要があります.また,津波はふつう何度も押し寄せてきて,第1波よりも第2波の方が大きいこともあるため,長時間の警戒が必要です.

今回のインド洋大津波ではゆれは小さな地震であったにもかかわらず,大きな津波が発生しました.これは「津波地震」とか「ゆっくり地震」とよばれる,時間をかけてゆっくりと変位する地震が発生したためといわれています.このように津波はあまり大きなゆれを感じなくても発生することがあります.

いっぽう遠地津波(えんちつなみ)とよばれる,地震発生後1時間以上経過してから震源から遠く離れた地域を襲う津波もあります.1960年に発生したチリ地震による津波は太平洋を渡り,地震が発生してから約1日後に日本の東北・北海道地方を襲い,142人の犠牲者が出ました.

また,津波には陸上に押し寄せてくる押し波と海側に引いてゆく引き波があります.津波が押し寄せる前兆として海岸線が海側に後退する,と良く言われますが,第1波が必ずしも引き波から始まる訳ではなく,いきなり押し波が来ることもあります.

津波は地震以外でも,火山噴火による山体崩壊物や火砕流堆積物が湖や海などに流入したり(図2-1,2,3),海底地滑りが発生したり,隕石が落下した場合などにも発生します.スマトラ地震が発生したインドネシアには129の活火山があります.このうち1883年に火山島であるクラカトア火山が噴火してカルデラが生じた時には大津波が発生し,3万6000人が犠牲になったと言われています.

地震による津波のアニメーション

地震によって津波が発生する仕組み

山体崩壊による津波のアニメーション

山体崩壊によって津波が発生する仕組み

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3.日本では過去にどのような津波が発生したのか?

日本もインドネシアと同様,プレートの境界に位置し,多数の活火山があります.このため過去に繰り返し地震や火山噴火に伴う津波が発生して多くの犠牲者が出ました.

太平洋プレートやフィリピン海プレートが沈み込む太平洋岸では周期的に発生する地震に伴う津波により,例えば1896年の明治三陸地震では約2万2000人,1946年の南海地震では約1400人が犠牲となりました.

日本海側でも北米プレートとユーラシアプレートの境界で時々海底地震が発生し,これによる津波が日本海沿岸に押し寄せます.1983年の日本海中部地震では海岸に遠足に来ていた小学生ら100人が,1993年の北海道南西沖地震(写真)では震源のほぼ直上に位置した奥尻島を中心に約170人が犠牲となりました.

海岸近くの火山が山体崩壊を起こし,その崩壊物が海に流れ込み津波を引き起こす例もあります.九州島原半島の雲仙岳眉山は1792年に噴火活動に伴う地震により崩壊し,その崩壊物は有明湾に流れこみ,対岸の熊本県側を大津波が襲いました.この結果,「島原大変肥後迷惑」(しまばらたいへんひごめいわく)と言い伝えられるように,1万1000人の犠牲者が出る大きな災害となったのです.

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4.津波の痕跡を調べる

津波がいつどこで発生する可能性が高いかを知るためには,過去にどのような津波が発生したかを詳しく調べる必要があります.記録の無い時代にどのような津波が発生したかを推定するにはどうしたら良いでしょうか?津波は陸上を駆け登る時に海底や海岸のレキや砂や土壌などを削り取り,津波が引いたあとにはこれらの堆積物が陸側に残されます.これを津波堆積物といいます.ある場所で地層の中に何層もの津波堆積物が重なっていて,その年代が判れば,津波の発生頻度を推定することができます.また,堆積物の分布を詳しく調べれば津波がどのような方向から陸上に侵入したのかといった津波の振る舞い方を復元することもできます.

北海道大樹町生花調査

海岸近くの湿地での津波堆積物の調査.
写真左側が太平洋(大樹町生花)

北海道の太平洋沿岸には地震による大小さまざまな規模の津波が繰り返し来襲しています.最近の津波堆積物の調査から400〜500年周期で大津波が発生したことが分っています.北海道東部の太平洋岸に位置する大樹町生花(たいきちょうせいか)では,海岸に近い湿地の地下から多数の津波堆積物が発見されています.このような津波堆積物の分布や堆積物中の粒子の大きさやレキの傾きの方向などを調べることにより,津波の侵入経路などが明らかになります.

泥炭層中の砂を主体とする津波堆積物.有珠山1663年噴火の火山灰層に覆われることから17世紀前半のものと推定される. 津波堆積物中のレキの配列方向を調べ津波の動きを復元する.
北海道渡島駒ケ岳

北海道の渡島駒ケ岳
1640年噴火で山体の一部が崩壊し,その山体崩壊物は噴火湾に流れ込み津波を発生させた.

同じく北海道の南部に位置する渡島駒ヶ岳は1640年噴火で山体の一部が崩壊し,その崩壊物の一部は内浦湾に流れ込み津波を発生させ,湾の中の漁船が津波に巻き込まれたりして約700人が犠牲となりました.この津波についても陸上に残された津波堆積物の調査から,噴火湾沿岸に最大で10m程度の津波が押し寄せたことが分っています.このような津波の形成過程は,堆積物を構成する砂・レキの種類,粒子の大きさやそこに含まれている珪藻化石などの種類を調べることにより明らかになります.

駒ヶ岳1640年噴火に伴う山体崩壊堆積物(鹿部町出来澗崎) 円レキを主体とする津波堆積物.津波の直後に降った1640年噴火の降下軽石に覆われる(森町鷲の木).
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5.津波災害を減らすには

日本は津波については世界をリードする監視体制を整備しています.現在,気象庁の地震津波監視システムにより,地震発生3分後に津波予報が,5分後には予想される津波の高さ・到達時間を推定した津波情報が出されます.しかし,北海道南西沖地震では地震発生後1〜2分で第1波の津波が押し寄せてきたため,海岸部に居る人は地震を感じたら,ただちに避難する心がけが必要です.また,津波の力をやわらげる防潮堤や一時避難用の建物の整備も重要です.さらに,津波襲来時にどのような避難行動を取れば良いかを示した津波ハザードマップの整備とそれを活用した避難訓練も不可欠であり,そのためには過去に発生した津波の襲来実績を詳しく明らかにする必要があります.地球システム科学科では,卒業テーマ研究などを通じて過去の津波の実態を明らかにするための研究を進めています.

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