7月23日千葉県北西部地震の震度について地球システム科学科 遠藤邦彦・吉井敏尅
1.千葉県北西部地震における震度分布2005年7月23日16時35分頃,千葉県北西部を震源とする地震があり, 首都圏の交通は一時麻痺状態となり,多くのエレベーターが停止して人々が中に閉じ込められる(朝日新聞によると5万台近くのエレベーターが緊急停止したという)など, 大きな混乱がおこりました.この地震の震源は深さ約70km,地震の規模はマグニチュード6.0でしたが,東京, 埼玉, 千葉, 神奈川にまたがる広い範囲で震度5弱が観測され, 東京都足立区では震度5強を記録しました(図1). 2.沖積層(軟弱地盤)の厚さ関東平野の軟弱地盤は沖積層と呼ばれる地層で,東京では主に有楽町層と呼ばれているものにあたります.有楽町層は主に"縄文海進"と呼ばれる海の浸入が関東平野の内部に及んだ時代を中心に海底で急速に堆積したものです.6000年前には現在の海岸線から50kmも内陸に海岸線が移動していました.埼玉県東部の低地は当時細長い湾であったわけです.この湾は徐々に軟らかい粘土で埋まっていき,3000年前頃には草加市付近に海岸線が移動しました.その頃東京の下町はまだ海でした.今回の地震で震度5弱を記録した東京の下町や埼玉県の南部は,それ以後に陸地になったところにあたります.江戸時代でも浅草付近に海岸があったわけですから,極めて新しい時代に陸地になったところということになります.東京の下町では,主に上記の海に堆積した特に軟らかい粘土が30mから40mほどの厚さになります.全体にかなり軟弱な沖積層の厚さで見ると, もっとも厚いところでは70mから80mにもなります.図2には沖積層の厚さの分布を示します.図3に埼玉県南部(図3-上),および東京の下町の断面図(図3-下)を示します.川崎市や横浜市などの低地も状況は同様です. 新しく,遠藤ほか,1983,1988に基づいて長谷川・竹村が国土数値情報から作成した地図上に表現した沖積層基底面図と,南方から見た俯瞰図を作成しました。詳しくは地盤災害・斜面災害>「東京低地の沖積層の分布」をご覧下さい.(2006.6.23更新) 軟弱地盤と地震災害今回の地震による震度分布はちょうどこの沖積層, あるいは軟弱地盤の厚い範囲を反映しているように思われます.言いかえれば,私たちは今マグニチュード7クラスの首都圏直下地震に備える努力を必要としていますが,そのときに,軟弱地盤の影響(振動を増幅する効果)があることを忘れてはいけないという警鐘が鳴らされていると考えるべきでしょう. *沖積層と軟弱地盤:沖積層は2万数千年前から現在までに形成された地層の単位を示すものであり,軟弱地盤は軟弱な性質をもつ地盤(地層)を意味します.沖積層は大部分が軟弱地盤と呼ばれる軟らかい地層(泥や砂)で構成されていますが,部分的には軟弱といえない部分を含んでいます.また,沖積層以外にも軟弱地盤が存在する可能性はあります.したがって,沖積層と軟弱地盤とは,ほぼ同じものを呼ぶことにはなりますが,イコールではありません. 文献・遠藤邦彦・関本勝久・高野司・鈴木正章・平井幸弘(1983)関東平野の沖積層.アーバンクボタNo.21,p.26-43. ・遠藤邦彦・小杉正人・菱田量(1988)関東平野の沖積層とその基底地形。日本大学文理学部自然科学研究所「研究紀要」, 23号,p.37-48. ・貝塚爽平・松田磐余編(1982)首都圏の活構造・地形区分と関東地震の被害分布図.内外地図,48p. ↑このページの最初へ
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