災害速報

秋田焼山の水蒸気爆発

(1997年8月18日22:00作成
9月20日10:00更新 ver 8.0)

 このページは、千葉達朗林信太郎によってメンテナンスされています。
なお、このページ中で紹介している空中写真は、アジア航測が撮影したものではありません。
林が秋田県土木部砂防課から提供頂いたもので、こころよく掲載を許可して頂きました。
この場をかりて、お礼申し上げます。
本ページの内容の一部は、まもなく地質学雑誌の口絵で公表されます。
内容へのコメントや情報の提供・投稿を歓迎します。メールをお寄せください。

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1997年8月16日午前11時頃、秋田焼山山頂部で水蒸気爆発が発生しました。

その後も火山性の地震が観測されており、警戒が強められています。


CONTENTS


姉妹ページ?


気象庁発表情報など

(西出@仙台管区気象台さんからfunkaネットへの情報を転載)


1997/9/19

(臨時情報第3号の内容)

9月18日23時10分頃,約6分間火山性微動が観測されました。遠望カメラでは異常は認められませんが,今後の火山活動に注意して下さい。

(観測情報第15号の内容)

9月18日23時10分頃の火山性微動発生以降、火山性地震が増加していす。時間別の火山性地震回数は次のとおりです。

  • 9月18日23時台   5回
  • 9月19日00時台  13回
  • 9月19日01時台  19回

引き続き今後の火山活動に注意して下さい。


1997/9/16 16:00

(観測情報第14号の内容)

8月16日の噴火(水蒸気爆発)以降の火山活動状況をお知らせします。(平成9年8月19日14時00分発表,臨時火山情報第2号関連)本日(16日)15時までに観測した火山性地震は1262回,火山性微動は4回です。

9月9日から16日までの火山性地震及び火山性微動回数

  • 9月 9日  火山性地震  7回,火山性微動0回
  •   10日  火山性地震  0回,火山性微動0回
  •   11日  火山性地震 16回,火山性微動0回
  •   12日  火山性地震 19回,火山性微動0回
  •   13日  火山性地震 35回,火山性微動0回
  •   14日  火山性地震 12回,火山性微動0回
  •   15日  火山性地震  5回,火山性微動0回
  •   16日  火山性地震  5回,火山性微動0回

 8月16日の噴火以降,19日の448回を最高に地震の回数は減を繰り返しながら減少しています。また,微動は8月19日以降発生していません。噴火後火口及びその周辺では火山活動に特に変化が認められていません。なお,火口周辺は立入り禁止となっています。次の火山観測情報は24日(水曜日)16時頃に発表します。火山活動に変化があれば,随時火山情報でお知らせします。引き続き今後の火山活動に注意して下さい。


1997/9/9 16:00

(観測情報第13号の内容)

本日(9日)15時までに観測された火山性地震は1167回,火山性微動は4回です。

9月2日から9日までの火山性地震及び火山性微動回数

  • 9月2日  火山性地震  3回,火山性微動0回
  •   3日  火山性地震  5回,火山性微動0回
  •   4日  火山性地震 27回,火山性微動0回
  •   5日  火山性地震 30回,火山性微動0回
  •   6日  火山性地震  5回,火山性微動0回
  •   7日  火山性地震 10回,火山性微動0回
  •   8日  火山性地震  6回,火山性微動0回
  •   9日  火山性地震  4回,火山性微動0回

 8月16日の噴火以降,19日の448回を最高に地震の回数は次第に減少しています。また,微動は19日以降発生していません。噴火後火口及びその周辺では火山活動に特に変化が認められていません。なお,火口周辺は立入り禁止となっています。次の火山観測情報は16日(火曜日)16時頃に発表します。火山活動に変化があれば,随時火山情報でお知らせします。引き続き今後の火山活動に注意して下さい。


1997/9/2 16:00

(観測情報第12号の内容)

本日(2日)15時までに観測された火山性地震は1079回,火山性微動は4回です。

8月26日から9月2日までの火山性地震及び火山性微動回数

  • 8月26日  火山性地震 20回,火山性微動0回
  •   27日  火山性地震 13回,火山性微動0回
  •   28日  火山性地震 18回,火山性微動0回
  •   29日  火山性地震 15回,火山性微動0回
  •   30日  火山性地震 13回,火山性微動0回
  •   31日  火山性地震 14回,火山性微動0回
  • 9月 1日  火山性地震  6回,火山性微動0回
  •    2日  火山性地震  2回,火山性微動0回

 8月16日の噴火以降,19日の448回を最高に地震の回数は次第に減少し,ほぼ 噴火前の状況となっています。また,微動は19日以降発生していません。噴火後火口及びその周辺では火山活動に特に変化が認められていませんが,火口周辺 は立入り禁止となっています。次の火山観測情報は9日(火曜日)16時頃に発表します。火山活動に変化があれば,随時火山情報でお知らせします。引き続き今後の火山活動 に注意して下さい。


1997/8/26 16:00

(観測情報第11号の内容)

本日(26日)15時までに観測された火山性地震は991回,火山性微動は4回です。

  • 16日  火山性地震 62回,火山性微動2回
  • 17日  火山性地震 81回,火山性微動1回
  • 18日  火山性地震 71回,火山性微動0回
  • 19日  火山性地震448回,火山性微動1回
  • 20日  火山性地震226回,火山性微動0回
  • 21日  火山性地震 27回,火山性微動0回
  • 22日  火山性地震 14回,火山性微動0回
  • 23日  火山性地震 18回,火山性微動0回
  • 24日  火山性地震 14回,火山性微動0回
  • 25日  火山性地震 17回,火山性微動0回
  • 26日  火山性地震 13回,火山性微動0回

 16日の噴火以降,19日を最高に地震の回数は次第に減少し,ほぼ噴火前の状況となっています。また,微動は19日以降発生していません。噴火後火口及びその周辺では火山活動に特に変化が認められていません。これまで毎日発表していた火山観測情報を本日から毎週火曜日16時頃に発表します。今後火山活動に変化があれば,随時,火山情報でお知らせします。火口周辺は立入り禁止となっています。引き続き今後の火山活動に注意して下さい。


作成中



ニュースクリップ

(asahi.com Last updated, Aug. 16 at 23:07 JST.)


LINK


現地写真(一部ステレオ写真

撮影/文責:秋田大学教育学部 林信太郎


発生前写真と空撮写真

文責:秋田大学教育学部 林信太郎


※「泥流」について(8月20日15時/林信太郎)


林信太郎のコメント(8/21)

旧火口および新火口の位置関係

鬼ヶ城火口

 まず,諸現象の起った場所の位置関係から説明いたします。「空からみる日本の火山」の58ページをご覧ください。鬼ヶ城溶岩ドームとエメラルドグリーンの水をたたえた火口湖が写っています。この火口地形には大場(1991)では名前が付けられていませんが,とりあえず鬼ヶ城火口と呼ぶことにします。新聞報道で「空沼」とよばれている場所は,おそらくここに対応しています。

鬼ヶ城東部火口*1)

 この鬼ヶ城火口の奥にU字型の影ができていますが,ここは直径30mほどの小さな火口地形になっています。水はなく草が生えていますので,鬼ヶ城火口よりはレベルが高い事がわかります。この火口をとりあえず鬼ヶ城東部火口と呼びましょう。この火口の奥が新火口B,ほぼ中心部が新火口Cです(この新火口名は暫定的に使っています。火口と呼んでいいかどうかも検討中です)。新火口Bは陥没がによるピットクレーターで大きさは長径15mほどの楕円形,新火口Cからは後に述べるように泥が噴出した後と小規模な陥没が見られます。

新火口A

 さらに,鬼ヶ城西部火口の北西に隣接して直径15-20mの小火口があります。空からみる日本の火山の写真では良く見えません。この火口の火口底の高度は鬼ヶ城西部火口よりも15-20m高くなっています。この古い火口の底に出来たのが新火口A(長径(NS):15m;短径(EW):8mの火口;深さ:30m)。この新火口は割れ目状の形態をしているので測る場所によって大きさが違います。新火口A〜Cとも既存の火口を利用して出てきた事がわかります。

新火口B

 水蒸気爆発およびそれに先行する一連の活動により,新火口Aからは,火山灰および噴石(弾道岩塊)が噴出し,新火口BあるいはCから泥が噴出しました。

新火口C

 空からみる日本の火山,58ページの図と噴火後の状況を比較する事のできる写真を載せておきました。秋田県土木部砂防課のご好意により提供していただきました。この写真からは新火口BあるいはCからでてきた泥が鬼ヶ城火口内に扇状に広がっているのがわかります。

*1)鬼ヶ城東部火口は津屋(1954)1949-a3火口に一致するようです。

噴出物

火山灰

 火口Aから噴出。南西方向に傾いた低い噴煙柱をあげたらしく,アイソパックもこの方向に伸びている。55mほどの鬼ヶ城火口壁方向に噴煙柱があがっているので地形効果でアイソパックの曲線も歪んでいる。また,南西方向にあがった噴煙から,さらに風で東方向に流された火山灰の痕跡をヘリの写真で観察出来る。この部分は非常に薄いので昨日の雨で流されてしまった可能性が高い。火山灰は新火口BあるいはCから出た泥の表面をおおっている。アイソパックマップから暫定的な体積を計算したところ,総噴出量はおよそ1000m3と見積もられる。火口近くではプラスチックに変形可能な泥状で堆積し,初日の観察者の足跡が残っていた。

噴石

 噴石についてはあまり計測をおこなっていない。火口から10m地点で35cmの噴石を確認。火山灰の上には無数のbomb sagが認められた。噴石の掘削は難しく多くは調べていないがデイサイトの角れきが多かった。深い穴をつくっていることが多い。新火口BあるいはCから出た泥の内,火山灰がほとんどのっていない部分ではbomb sagが形成された後に泥が組成変形し穴の痕跡だけが残っている。

 新火口BあるいはCから流出した泥が大部分と現在では考えている。ただし,水を多く含んだ火山灰がwelded spatterのように集合し,再流動した部分も含まれている可能性は否定出来ない。泥の大部分は火山灰におおわれさらにその上に無数のbomb sagが認められる。

新火口BあるいはCから泥が出たとする根拠

 

 

  • 1)新火口Bと呼んでいる地点に見られる深さ2-3mのリング状の陥没構造。
  • 2)新火口Cから活動の最末期に泥が噴出している。色調の違うやや褐色みの強い泥が新火口Cのまわりに同心円上に分布し、一部は鬼ヶ城火口の火口壁にもはりついていること。この泥は噴石によってできたbomb sagをおおっている。
  • 3)さらに,新火口Cにも同心円状の割れ目が見られる。これは小規模な陥没があった事を示していると考えられる。

 以上のように少なくとも最末期には泥が出てきているし,ドレインバックにともなうと考えられる陥没構造が認められる事から,新火口BあるいはCから泥が出たと考えた。新火口B,Cのいずれから泥が出てきたのかは判断が難しい(したがって,新火口と呼んでいいものかどうか迷っている)。

パンケーキ状のマウンド

 新火口BあるいはCから流出した泥は鬼ヶ城西部火口を埋め,さらにそこから扇型に広がり,末端がパンケーキ状のマウンドを作っている。大きな岩塊の背後には末端に向かって延びる10数mの淡褐色の筋がついている。いくつかのローブに別れているようにもみえるがはっきりしない。末端部分周辺の火山灰は12mm以下である。火山灰に覆われていない部分の色調は黒灰色で火山灰を作る泥よりも黒味がかっている。体積は20000m^3(暫定値,まだ再計算していない)。

bomb sag

末端部のbomb sagの内大きなものからは鬼ヶ城火口湖にもとからあった泥がしみ出してきているので,泥の厚さは数10cm程度と考えられる。なお,泥の流れ込んだ鬼ヶ城火口湖の温度は噴火の翌日にすでに低かった(気象庁の計測)

噴火の経過

以上のような観察から,次のようなシナリオを考えました。

  1. まず,泥の噴出した鬼ヶ城西部火口の下,浅所に水に飽和した大量の泥が存在した。
  2. 熱水の上昇に伴いこの泥の下部あるいは中に蒸気だまりが形成された。この溜りの形成に伴い泥が,新火口B,Cのいずれかから絞り出される。絞り出された泥は鬼ヶ城西部火口を埋め鬼ヶ城火口内に流れ込みパンケーキ状のマウンドを形成した。泥の温度は低い可能性が高いので蒸気だまりとの熱交換はすすまないうちに爆発にいたったと思われる。これは微動の継続時間が1時間程度と短かった事とも調和的である。
  3. 蒸気だまりの水蒸気は鬼ヶ城西部火口の北西の旧火口下の弱線を通って外に流出し,これが契機になって平衡破綻型(谷口,1996)の水蒸気爆発が起き,新火口Aから噴石,および火山灰が放出される。
  4. 非常に小規模なガスの噴出により火口C地点から火口底の泥も混じりこんだ色調の違う泥が少量噴出し火山灰の表面を薄く覆う。
  5. 泥のドレーンバックに伴い火口B地点に陥没構造が形成される。


    (千葉のコメント)

     まず泥が絞り出されたとしているが、これは、パンケーキ状の泥のマウンド表面に多数のbomb sagが見られることから判断したと思われる。しかし、泥に覆われたbomb sagがあって、確認ができないだけという可能性はないのか。最初にカタストロフィックなイベントがあって、事が始まるのが普通であるような気がする。それを考慮して、想像をたくましくすると・・(1986伊豆大島C火口列の噴火目撃記憶を参考にして・・)

     はじめに、爆発でA割れ目火口が開いて、噴石を飛ばすが、大きな岩の大半は割れ目の中に落ち込んだかもしれない。直ぐに、お湯と泥の混じったもの(泥漿)が、地下から上昇してくる。しかし、鬼ヶ城火口のヘリで横方向にあった割れ目(あるいは古い火口)に入り込みB火口から泥漿状のものが地表に出る。その時、A火口も活動をしており、小さめの岩を核にしたり、泥団子のようになったものを噴出している。細かなものは、高くまで上がり、風に流されて火山灰となる。しかし、湿っているので、それほど広い分布域ではない。その後吹き出すものがなくなるにつれ、泥漿のヘッドが下降し、水蒸気がのみがジェット状に吹きだし、大きめの噴石をも飛ばす。パンケーキ状の泥のマウンド上に多数のインパクトクレーターが形成される。さらにヘッドが下がると自らのフォールバックでAからもBからもでにくくなる。しかし、最後に、新たに生じたC火口(地下では割れ目状?)から少しの水蒸気や泥と一緒に元の池の堆積物を吹き飛ばし、茶色っぽい同心円状の分布域を形成する。そして再末期にB火口から、泥漿の一部がドレインバックする。


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