「ダンテズ・ピーク」を
火山学的にまじめに考えるページ

(1998年2月16日版) 


このページではDANTE'S PEAKについて火山学的にまじめに紹介します。


主人公が火山学者という映画は初めてなのではないでしょうか。 シナリオ型の災害想定の一つの事例として、どこまで容認できて、どこからがフィクションなのか。 CGはどこまで科学的真実を映像化できたのか。なお、まだ筆者は、1回見ただけで、脚本やメイキングの番組なんかも見ていないので、誤解があるかもしれません。気がついた方はお知らせ下さい。


 
(1) 冒頭のシーン
 
火山弾が、オレンジ色の炎を上げながら、垂直に落ちてくる。しかも泥の雨の降る中を。そこを、車をとばして避難中、助手席の上に火山弾が命中し、婚約者が亡くなってしまう。


降下火山灰が降雨に混じって、泥雨のようになって降ることは実際にある。フィリピンのピナツボ火山噴火では、広い範囲でこういったことがあり、厚い噴煙が太陽の光をさえぎり、真昼なのにも関わらず、真っ暗になったことが知られている。 一般に、このような細粒な降下火山灰は火口から比較的離れた地域に降下することが多く、 火山弾は火口のごく近くに集中して落下する。したがって、単一の噴火によって、同一地点に泥雨と火山弾が同時に降ることは余り考えにくい。

また、火山弾は落下するときに燃えているわけではない。実際の火山弾は、マグマのじぶきが噴泉からちぎれ飛んできたもので、飛行中に外側が冷却し、黒く見えることが多い。確かに、夜間や落下直後の内部などは、赤く見えるが、それもその温度が高いことによるもので、決して何かが燃えている炎のために赤いのではない。

また、火山弾は火口での爆発によって飛行を開始するから、ある程度以上のサイズになると放物線を描いて飛行・落下してくる。したがって、火口の真上でない限りは垂直上方から落下してくることはない

また、落下した後の火山弾は壊れるわけでもめり込むわけでもなく、ただゴロンと転がっただけだったが、実際の火山弾は、斜め上方から、空気を切り裂くような音を出しながら落下し、着地点で破片となって飛び散ったり、擦り鉢型のクレーターを作ったりする。

垂直上方から落下することが仮にあったとしても、かなりの速度で走行中の車の水平速度成分が合成され、走行中の車から見れば斜め前方から落下してくるように見えるはずである。落下速度は200km/h以上にはならないし、車の速度は100km/h程度にはなるので、無視できるレベルではない。したがって、火山弾が助手席の天井に穴をあけ、そこだけに被害がおよぶように落下することは、ほとんどあり得ないと思う。


(2) 温泉で入浴中のカップルが・・・
 
火山の山麓にある、天然の温泉(露天風呂)に、若い旅行者のカップルが入浴中、突然、下から気泡とともに、なにか赤い物質が噴きだし、その直後に絶命する。ハリーは、有毒ガスによってリスが死んでいたことも考えあわせ、噴火が近いということを直感的(?)断定的に予想し、市長に提言、市長は担当者に召集をかけ避難対策の検討を始める。


その後の、子どもの飛び込みを阻止したシーンの会話から推定すると、温水の温度が急激に上昇したのらしい。赤い物質が何なのか、説明がない。温度が上昇したことからすると、マグマのつもりなのかもしれない。もし、実際に赤く見えるほど高温のマグマが、水中に吹き出たのだとすれば、水蒸気爆発が発生する可能性がある。あの程度では済まない。
なお、江戸時代、草津温泉で入浴中の客が急激な温度の上昇でやけどで亡くなったという記録がある。そのような、入浴中の人間が温度上昇を感じて自発的に上がることもできないような速度の水温上昇があり得るのかは甚だ疑問である。入浴中に有毒ガスで倒れたのを、そういう風に誤解した可能性が高いと思う。なお仮にこれが、水温上昇による熱死だったとしても、それだけで、新しいマグマが上昇しているという断定を下すことは難しいと思われる。草津温泉の例でも、直後に草津白根火山が火山活動をしたという記録はなかったと思う。


(3)溶岩流が窓を破って居間に流れ込む

 映画で表現されているような玄武岩質の溶岩流の温度は、約1000度である。窓を割る寸前の家の外の状況を考えると、窓枠の下の部分より高い位置まで、溶岩流が満たしていなければならない。窓を割るだけの圧力を窓ガラスにかけるためには、溶岩流はガラス面に密着する必要があると思われる。問題にしたいのは、そのような温度のものが密着した場合に、木造家屋がなぜ燃え上がらないのかという事である。あのおばあちゃんの家の玄関は少なくとも、木造だったし、ログハウスのような印象だった。ガラスを割るよりも先に、とっくに燃え上がらなければ不思議である。
 また、100歩ゆずって、家の裏はコンクリートづくりで、それが可能であった場合でも、溶岩流の速度が余りにも速い。あの速度は溶岩のチューブの中央部の速度に匹敵する。家の床はほとんど水平である。たとえ、窓枠の部分が、床より高いと行っても1mもない。そのような勾配と、幅と厚さでは、溶岩流の粘性が水よりも高いので、速度には自ずと上限があるのである。
 実際には、燃え上がるだろうし、そうではない場合でも、lava toeを作成しつつ、しずしずと流れ込むであろう。

(4)湖を渡るボートが強酸で溶けて沈没する
 溶岩流に湖の岸に追いつめられた4人は、残されたただ一つの道である桟橋へ向かい、モーターボートで湖の対岸をめざす。ところが、湖の表面には大量の魚が白い腹を上向きにして浮かび、強酸性を暗示する。最初は順調に進んでいたボートも、湖の対岸を目前にしてスクリューが酸の腐食で溶けてしまい、進めなくなる。さらに、ボート自体もだんだん溶け始め、水を掻い出しながら進む。そして、あと少しで対岸というところで、ボートは沈み始める。腕に巻き付けた上着を櫂にして必死で進もうとするが、万事休す。そのとき突然、おばあちゃんがその湖の中に飛び込み、ボートを手で押して対岸に接岸させる。
 
 火山地帯で、酸性水が河川に流入し魚が浮き上がることは良くある。したがって、湖の水質がが急激に酸性に変化する事はたびたび観測される事実である。また、モーターボートはグラスファイバー製のものが多いが、組立式のアルミニウム製のボートもある。したがって、状況としてはあり得る。
 また、アルミ片を濃硫酸に入れると激しく反応し、水素の泡を出しながら溶ける。塩の硫酸アルミニウムは水に可溶なので、何もなくなるように見える。それは高校程度の化学実験でも確認できる事実である。
 アルミニウム製のボートや鉄製のスクリューが数分ないしは数十分でその機能を損なうまでに溶解するのに必要な、水素イオン濃度や水温はどの程度なのであろうか。たとえば、草津白根火山の麓のpH1.8の湯川でも、五寸釘が溶けるには10日を要する。
 また、そのような、濃度に湖全体を変化させるのに必要な、物質の流入速度や濃度や量は、どのくらいなのであろうか。計算可能なことである。
 湖が小さければ、硫酸の濃度上昇の可能性も高いが、それは同時に、ボートで容易に渡り終えることもできることを意味している。したがって、このシーンで見られるようなことが起こるためには、非常に広くて浅い、高温の濃硫酸で満たされた湖が存在することが必要ということになる。
 草津白根火山の湯釜は、湖底に溶融した硫黄が存在する、世界一酸性の強い火口湖である。この湯釜のpHでも1.0前後である。アルミ製のボートがたちまち溶けるような、濃硫酸の湖は知られていない。濃硫酸は水をよく吸水するので、脱水のための薬品として使用される程である。濃硫酸を工業的に生成するには、SO2ガスを原料とし、NO2ガスと反応させて作る。その際に、鉛の壁でできた反応室、あるいは五酸化バナジウムを触媒として使用する。自然界で偶然できるようなものではない。仮に、濃硫酸の湖があったとしても、水と反応してすぐに薄まってしまい、せいぜいpH1.0程度にしかならないということが考えられる。 (8/10)

(5)流れる溶岩流の上を車で走る
 湖の対岸でみつけたジープを走らせ町を目指す、ところが行く手の道路は、溶岩流がまさにに横断中。ハリーは意を決して、坂の上まで車をバックさせ、勢いをつけて、流れている溶岩流の上を走りはじめる。進むに連れ、溶岩流の熱はタイヤを燃やしてしまう。ホイールだけになった車は、ついに途中でスタック(マグマに?)、空回りをはじめる。前進もバックもできない、万事休すと思われたその時、偶然倒れてきた樹が車を押し出し、なんとか渡りきる。 
 この溶岩流の厚さは、数十センチ程度のようですから、速度と考えあわせると、パホエホエタイプと考えられます。この種類の溶岩流は、丸みを帯びた表面を持ち、数十センチ単位の厚さで流れます。一見すると表面は黒くて、硬いようですが、薄い殻の内部はまだドロドロの液体です。表面の殻の部分が厚くなれば、十分に強度も生まれるでしょう。しかし、このシーンのように流れているということは、まだ殻は厚くはないとおもわれます。溶岩流が冷えるにしたがい、粘性が増加します。十分に摩擦抵抗が大きければ、まるで泥の中を走る、ジープのように走り抜けられるかもしれません。しかし、車の外部や下部にはタイヤや燃料タンクなどの、可燃物や危険物が多くあります。1000℃の熱にさらされたり、さらに傷を付ければ引火爆発はさけられないでしょう。
 もし、仮にこれらの条件が満たされた場合、走り抜けられるのでしょうか。玄武岩質マグマの比重は、発泡の程度にもよりますが2.0〜3.0程度と考えられます。車は内部に空間があるので、理論的には浮くことは可能なはずです。素材を工夫し、断熱材をうまく使えば、水陸両用車ならぬ、陸マグマ両用車ができるかもしれません。実は、金星探査車の開発なんかでは検討されているかもしれません。
ですから、ずいぶん前の映画のラストシーンで三原山の火口にゴジラが落ちましたが、赤いマグマには沈まずに、まだそのへんに浮かんでいるはずです。(三原山の火口の赤いマグマに魅せられて飛び込んだ、数多くの自殺志願者も沈めなかったということです。)


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