carbon

オルドイニョ・レンガイ火山の

カーボナタイト溶岩流

The carbonatite lava flow at Oldoinyo Lengai volcano

このページでは、秋田大学教育学部助教授の林信太郎さんが撮影した、カーボナタイト溶岩流の写真を紹介します。

1997年11月6日 千葉達朗作成

 今年の10月、アフリカのタンザニアに調査に出かけていた、林さんと白尾さんから、カーボナタイトの溶岩流を目撃したとのビッグニュースが飛び込みました。もしかしたら日本人では、はじめてかも。とりあえず、その生々しい報告を読んでみましょう。


 10月16日〜17日にかけて白尾元理さんとオルドイニョ・レンガイ火山に登って来ました。

 その折に、偶然、カーボナタイト噴火に遭遇いたしましたので、簡単にご報告いたします。詳しい内容については春の火山学会で発表するつもりです。ただ、残念な事に噴火を予想していなかったのでビデオカメラも温度計も持って行きませんでした。白尾さんはマミヤの5×7カメラとキャノンのEOS5でたいへんな傑作をものにしたようです。

 噴火は山頂部の直径300mほどの火口の中心部で起こっていました。私たち(私、白尾さん、ガイド、4人のポーター)が山頂火口についた10月16日の12時頃には噴火は既にはじまっていて、800立方メートルの溶岩が流れ出していました。おそらく、数時間前にはすでに噴火がはじまっていたと思われます。その時のlava streamの流量は0.25〜0.5立方m/秒でした。lava streamは、火口から直接流れ出しその時には他に支流は見られませんでしたので、12時時点での噴出レートと見る事ができます。結果としてできた溶岩はすべてパホイホイかアアでした。噴火は夜の内に終了しましたが、9時半までは少なくとも継続していました。また、翌日の朝6時40分に別の地点から再度噴火がはじまりました。8時の私たちの下山時点で、まだ、噴火は継続していました。

 火口から出たばかりの溶岩は激しく発泡しまるでジョッキにビールを勢いよく注いだ時のような様相を呈します。火口から2m地点までは近寄る事ができますが、においは全くしません。水蒸気が凝結する様子もありません。40m程流下すると(この間20秒くらい)揮発性物質はほとんど抜けてしまい発泡は全くといっていいほど観察できません。火山ガスの採集はもちろん道具がありませんのでしていませんが、発泡している溶岩をすくいとって急冷したものを持ち帰りました。噴出したばかりの溶岩は粘性がひくくほとんど泥水にしかみえません。溶岩は150m程流れる内に急激に粘性が増大しパホイホイやアアの形態で定置します。

 また、15時30分から近くにあった溶岩の尖塔(高さ14m)の頂上部分から少量の溶岩が吹き出しました。溶岩は泥水の様に粘性が低く飛沫は球形のラピリになります。

 温度計は持って行きませんでしたが、クラフト達が測定した時の温度は400度台で、夜見ると暗く赤く光って見えます。輻射熱がそれほどでもないので、lava streamからチタンのコッヘルで溶岩を汲み出せます。まちがって、まだ熱い溶岩を踏み抜きましたが(白尾さんと私が一度ずつ)、靴のナイロン部分しか溶けませんでした。おかげで足は無事・・・

 オルドイニョ・レンガイ火山に年間50回ほど登るガイドは、年間10回ほどは溶岩の流出に遭遇するそうです。一度の噴火は数日継続するらしい事、雨季には誰も登山しない事から考えて、噴火の頻度は月に2〜3回くらいでしょう。

 今回はたまたま噴火に遭遇したのですが、10日山頂で粘るとかなりの確率で噴火を見る事ができそうです。現在タンザニアの研究者と共同でミッションを行う事を計画中です。

(林信太郎による噴火ネットへの報告より抜粋)

力一ボナタイト

carbonatite

 ほとんど方解石またはドロマイトから成る火成炭酸塩岩。

アルカリ岩複合岩体の形成と成因的に密接な関連がある。カーポナタイトを伴うアルカリ岩体は径3〜5km(最大10km)程度の円形〜だ円形の小岩体で、カーポナタイトは岩体の中心部に位置し、最末期の貫入岩として産することが多い、カーポナタイトの産地は安定した大陸地域や地溝帯に限られ、とくにアフリカ大地溝帯に多い、時代的には先カンブリア時代にもわずかに存在するが、三畳紀以降とくに第三紀以降に多産。

 1960年10月、アフリカ大地溝帯中のタソザニアの活火山Oldoinyo Lengaiで、特異なソーダに富む炭酸塩鉱物だけからなるカーボナタイトの溶岩流が観察された。

 O・C・Srなどの同位元素の存在比も堆積性炭酸塩岩とは大きく異なる。カーボナタイト中にはNb・Zr・希土類・Ta・Th・Ba・Srなどの元素が濃集し、鉱床を形成する。

平凡社「地学事典」より


●カーボナタイト溶岩流の写真

写真のスキャンニングとコメントは林さんによるものです(一部加筆)。

写真-1 オルドイニョ・レンガイ火山の遠景
大地溝帯の中の平原から2000mそびえたっている。(写真の時刻は日本時間、現地時間は日本時間-7時間)
写真-2 オルドイニョ・レンガイ登山チーム
前列むかって左が林、右が火山の写真家として有名な白尾さん。後列むかって左端がガイドのプロ。背景に見えるのは、大地溝帯の壁
写真-3 オルドイニョ・レンガイ火山山頂から見たクレーター
今回観察した噴火点の一つ"The tower"先端からも、カーボナタイト溶岩が噴出した。同じような溶岩の塔はクレーター内にいくつか認められる。 新溶岩流は古い溶岩に比べて黒い(噴出点を赤矢印で示す)。噴出した溶岩は数日で灰色になり、数年後には灰のようにがさがさに変質してしまう。ここ数年で山頂クレーターはカーボナタイト溶岩により急速に埋積されている
写真-4 1997年10月16日溶岩
アア溶岩、パホイホイ溶岩の双方が観察される。黄色矢印の所で黒く見えるのは、流下中の溶岩。噴出点は赤い矢印で示した岩の陰である。
写真-5 1997年10月17日朝の噴出地点(aとb
b地点付近からあふれ出した溶岩がc地点にむかって流下している。aから出てくる溶岩はビールのように発泡している。bからは大きなバブルによってスパッターが小規模に飛んでいた。d地点の穴の中には煮えたぎるカーボナタイト溶岩の池。写真手前の人物は火口から約3mの地点で写真撮影を行う白尾さん。
写真-6 写真-5のa地点に接近して撮った写真
海坊主のように見える部分はビールのように細かな泡で(整髪料の)ムース状になっている。噴出直後のカーボナタイトの粘性は低いので、泡は急速にはじけ、溶岩として流れ出すと20-30秒ほどで発泡は終わってしまう。
写真-7 The towerの噴水
10月13日夕方、"The tower"頂上付近から溶岩が噴出した(黄色矢印)。まるで、泥水をホースでまき散らしたかのようである。しぶき状になった溶岩はすみやかに固結し球状のラピリ/火山灰になる。
写真-8 The tower全景
高さ約14m。カーボナタイトマグマは粘性は低いが、ソリダスとリキダスの差が小さく容易に固まる。そのため、小噴火のたびに溶岩が累積し高い塔状になったと考えられる。
写真-9 マグカップでのサンプリング
マグマの小川でカーボナタイト遊びに興じる白尾さん。かなり熱いがやけどをするほどではない。エバニューのチタンマグカップを素手で持っている事に注目。
写真-10 採取されたカーボナタイト
溶岩の川から直接採取されたカーボナタイト。一番右のマグカップで汲んだものが、中央の塊である。
写真-11 未固結の溶岩流上の足跡
未固結の溶岩の上に残る白尾さんの足跡(黄色矢印)。表面の薄皮を踏み抜いたために足跡は未固結のカーボナタイト溶岩がたまっている。白尾さんの足は無事だった。
写真-12 カーボナタイトによって一部溶けてしまった靴
靴の表面やひもなど化学繊維でできた部分が溶けているのがわかる。金具にこびりついているのはカーボナタイト溶岩。ちなみにこの靴は、カーボナタイト噴火に遭遇した事を記念して白尾家に代々伝えられる予定である。


●その他の写真

写真-13 キリマンジャロ火山の山頂があるキボ山(5895m)。

写真-14 オルドバイ渓谷(Olduvai gorge)

キリマンジャロ火山の6合目付近より。キリマンジャロ火山は巨大な盾場火山をベースに、キボ山(5895m)の他、マウェンジ山(5149m)、シラ山などのピークがある。

赤褐色の地層(layer3)の下位の灰色の湖成層(layer1&2)からAustralopithecus Boisei(Zinjanthropus)やHomo Habilisなどの化石が発見された。赤褐色の地層(layer3)の上位層からはHomo Erectusが発見されている。


●カーボナタイト関連リンク


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