日本地質学会第105年年会 松本大会 セッション27「火山噴火と噴出物」予稿集原稿HTML版

埋没家屋発掘による火砕流・サージ・ブラストの堆積過程の検討
千葉達朗(アジア航測(株))・長井大輔・橘川貴史・遠藤邦彦・小森次郎(日本大学地球システム)・森田明夫(アジア航測(株))   
Pyroclastic flow, surge and blast deposits in the destoroied house
Tatsuro CHIBA( Asia Air Survey. co.),Daisuke NAGAI, Takashi KITSUKAWA, Kunihiko ENDO, Jiro KOMORI (Nihon univ.) and Akio MORITA ( Asia Air Survey. co.)


1.はじめに

 1990年〜1995年の雲仙岳噴火では,溶岩ドームの崩壊による火砕流が頻繁に発生し,中尾川流域の千本木地区でも1993年6月23日〜24日にかけて大きな被害を生じた.このような大きな被害をもたらす,火砕流や火砕サージの速度や温度の実測は重要であるが,測定装置を事前に設置するのは困難である.


2.埋没家屋

 南千本木地区の地質調査中に,火砕流によって破壊された家屋が埋没保存されているのを発見した.発生前の空中写真から,最も山体に近い家屋の1軒であることがわかった.緊急発掘調査の結果,6月23日の第1波火砕流による破壊の過程,特に,火砕流本体に先行する”ブラスト”の温度や速度の条件を推定したので報告する.


3.家屋被害から復元された火砕流の到達過程

(1)土石流の到達

 家の周囲にある土石流堆積物の堆積面は,家屋内のコンクリートのタタキよりも高い.コンクリートタタキのビニールござの下には3cm程度のシルトが堆積している(入り込んだのか,泥の上に敷いたのかは不明).

(2)”ブラスト”による吹き倒し

 火砕流の本体に先行して堆積しているものは,細粒でさらさらしたものである.建物内の床より低い,コンクリートのタタキの上の30cmほどの空間にトラップされた.粒度分析結果を図-1に示す.横倒しになった壁の内部にも入り込んでおり,壁を吹き倒したことを示す.しかし,ビニールござを溶かしておらず,木も焦がすこともなく,相対的に温度は低い.

図-1 火砕流最下部の細粒堆積物の粒度分析結果


(3)火砕流本体による埋没と炭化

 火砕流本体は,厚さ1.5m,粒径50cm大のやや円摩された安山岩を多く含む.含まれる材木は,折れた後に熱を受け,完全に炭化しており,相対的に高い温度を示す.注目すべき点は,コンクリートのタタキの床下にも火砕流が入り込んでいることである.入り込んでいる方向は山側からであり,火砕流の破壊力の大きさを示している(写真-1)

写真-1 埋没家屋発掘状況ステレオ写真